【レビュー】08年第15節 名古屋戦@スワン

アルビレックス新潟 2-1 名古屋グランパス
スタッツ
「シュートは打たなきゃ入らない」って言葉があるけど、俺はそれじゃ言葉足らずだと思うんだよな。シュートってサッカーにおいて一番重要なモノだと思う。だから俺が好きなのは、ちょっと前のナイキのCMでカントナが言ってた「無駄なシュートなんて1本もない」ってヤツ。
そしてその「無駄なシュートなんて1本もない」を見事に体現したのが、この試合だったと思う。


この試合の開始早々にまず目に付いたのは新潟の守備のやり方。千葉ちゃんがかなり低い位置を取って、ほとんどDFの一枚としてプレーしていた。最初これは何故だ?と思ったのだけど、試合が進むと彼が玉田をマンマークに近いくらいピッタリとケアしているためなのだと判明する。千代と永田さんがヨンセン、千葉ちゃんが玉田を見る形。「千葉ちゃんが玉田をケアする」ってのは本人がモバアルでも語っていたけど、ここまで徹底するとは正直驚いた。
で、前半の立ち上がりはそのポジション取りのせいでいつもよりも中盤が薄くなったってのもあってか、ちょっとミスが目立つ展開。勲があっけなく横パスをかっさらわれたり・・・・。
そうなると名古屋のサイド攻撃のオートマティズムが発揮される事になる。特に今の名古屋の最大の武器と言ってもいい小川と竹内の右のユニットでサイド突破を図って、ウチの左を破るという形を2つ連続で作られる事になるのだけど、最初のピンチはヨンセンのヘッドが力なく北野の手に収まり、2つ目は小川のシュートが左に切れて事なきを得る。
そしてそのシーンを乗り越えると次第に新潟のリズムに移りはじめる。その主因となったのはこの試合を通して新潟が見せていた前線からの積極的なプレスとそこからの速攻という、新潟最大の武器が牙を剥き始めたという点。特にこの試合の勲の見せた危機察知能力と的確なポジショニング・プレスは見事で、何度も速攻の基点となった。
すると次第に見えてきたのが名古屋のバイタルエリアの空きっぷり。どうもこの試合での名古屋は攻守の切り替えの時にバイタルを空けるシーンが目立ったのだけど、そこを新潟の前線が狡猾に突きまくる。それに名古屋のDFは基本的にびしっとラインを設定するというコンセプトなので、ラインから早めに潰しに掛かって来る選手もおらず、新潟のシンプルな攻撃が威力を発揮し始める。
この試合で目立ったのは積極的なシュートのトライ。特にマルシオのシュート意識は凄まじく(最終的には一人で8本!)枠を捉えた数こそ少ないものの、確実に相手の守備をこっちに引き出して組織を崩す事に成功し始めた。
そんな流れで20分過ぎまでは新潟ペース。松尾の高速シザース(って呼んでもいいのかあれはw)からのシュートで、開始早々の竹内への反逆を試みたり、あと後々の布石となる貴章の一瞬のタメからPA内に切り込むドリブル→シュートがあったりと攻めまくる。
20分過ぎくらいからは名古屋に流れが傾き始めるものの、前述の守備のやり方が奏功してセンターはガッチリと守れるのでシュートまでには至らないし、サイドもサイドバックサイドハーフの連携で、試合開始時の様な名古屋の有効なサイドアタックを許さない。
しかし、やっぱりウチがファインゲームやる時って決まって、千代と永田さんのセンターバック2枚に、フォアリベロ的に千葉ちゃんが入る変則3バックみたいな時だよなあ。あーてか、その形が機能するためには、千葉ちゃんが下がった分の中盤の厚みとプレスを補うだけの前線からのプレスが必須なんだよな。そっかそうだよな。それって新潟の戦術の根幹にある部分だし、そのプレスを誘発する形でもあるんだよな。今書いてて気付いたわ。

で、その時間に名古屋の流れだったのは新潟のトップに当てた後のセカンドボールを拾えなかったからだと思うんだけど、そこをまたしてもマルシオがフォローに行って、ほぼ3人目のフォワードとして動き出すと再び新潟がペースを掴む。結局30分過ぎから前半終了までは新潟ペース。
で、そうやってマルシオがどんどん前に来ると段々と名古屋のディフェンスに変化が生まれる。それまでキッチリラインを作ってた名古屋のディフェンスなのだけど、そこから個人の判断で飛び出すシーンが出始めてラインが少し崩れるシーンが散見するように。これが後半の布石となる。
あーそういえばこの時間帯で千葉ちゃんが無回転気味のミドルで楢崎を強襲してたけど、あれもっと見せて欲しいと思う。てかあんなこと出来るんじゃん!もっともっと!!


そして後半。49分に玉田のミドルシュートクロスバーを叩いた以外はずっと新潟ペースが続く。前半に引き続き新潟の前線からのプレスが機能しまくると、次第に名古屋の運動量が落ち始めて、前半よりも新潟の攻撃の殺傷能力が増してくる。やはりこの辺から連戦の名古屋のコンディション、そして水蒸気でモヤがかかるようなサッカーをやる環境とは思えない気象条件が明らかに影響を及ぼし始める。
そして58分試合が動く。相手の深い位置からのスローインでチャンスとばかりにラインを上げた新潟のディフェンスが相手の攻撃を跳ね返すと、ボールはバイタルエリアのアレの元へ。で、ここで前半から打ちまくったシュートが影響したのか、そのアレにラインを崩して飛び出してくるバヤリツァ。それをアレが上手くいなして右でフリーになっていたうっちーへと流す。そして満を持して放たれたクロスはバヤリツァが瞬間的に抜けていた位置をカバーするために中へと絞っていた竹内の頭を越えて、本来竹内がいるべき位置に入り込んだ松下の頭へドンピシャ。
しかしこのシーンはバックスタンド住民冥利に尽きるシーンだったな。というのもそのウッチーのクロスの美しい放物線をしっかり堪能できたもの。なんか(毎度毎度スラムダンクネタで申し訳ないんだけどw)、神宗一郎が3ポイントシュートを決める一連の流れの美しさにゾクっと鳥肌が立った彩子さんを思い出した。あのクロスが放たれて向こうでわんちゃんが動き出したのを見た瞬間「あ、これ入る」って確信してガッツポーズ作って立ち上がる準備しちゃったもんなあ。素晴らしいゴール。うっちーナイスクロス、わんちゃんおめでとう。
そして間違いなくこれは前半からのシュートを打ちまくるという布石の結果のゴール。これはこれまでは見られなかった要素だよな。これが今後の大きなヒントになってくれる事を切に願う。


で、それを見てピクシーは深井に替えて杉本投入。しかしそれもきっかけにはならず相変わらず新潟ペース。早めのプレスとそこからの速攻を何度も繰り返す。特にこの時間からの新潟の左サイドは凄まじく、2トップとボランチが躍動する中で、松尾と松下のコンビが目立ちまくる。特に松尾は本当に怪我してたのか?ってくらいに大車輪の活躍。間違いなく加入してから最高の出来だったと思う。てか04年の時を含めてもベストだったんじゃないだろうか。素晴らしいぞ松尾。
そしてピクシーは玉田に替えて巻弟を投入。サカマガの名鑑の好きな芸能人欄に「山田花子」と書いて見事滑った人だな。好きな芸能人欄に「山田花子」と書いて見事滑った人だよ。重要な事だから、2度言ってみたよ。
で、結果から言うとピクシーの打った交代策で唯一成功したのがこの交代だったと思う。入っていきなりヨンセンを越えたクロスに巻弟が触るってシーンがあったけど、あれがそれまで順調に来ていた新潟の守備陣の精神面にちょっとした影響を与えたようだ。
で、その少し嫌な流れからのCK。小川のキックに増川。増川のヘッドはただ当てるだけ、という形にはなったのだけど幸運な形でゴールマウスギリギリにふわーと吸い込まれていく。ああ、勲の身長があと10センチ高ければ。いや、どうせなら15センチ高くなって身長187センチの怪物ボランチになってくれ。無理か!


しかしその後も流れは新潟。運動量で名古屋を圧倒して攻めまくる。特にこの時間での勲のインターセプトは名古屋の首を絞めまくって、どんどんと押し込む事に成功する。

ピクシーもこれを見てヨンセンに替えて米山。今年のピクシーは攻撃的な意図で米山を投入する事がよくあるんだけど、これもその意図が含まれたものだとは思う。米山を入れて巻弟、杉本、小川の3トップ気味にチェンジ。でも一番の意図は中盤での守備だったんだろう。
しかし流れは変わらず83分。ずっと繰り返していた左サイドからの攻撃で得たスローインから松尾がクロス→こぼれ玉を貴章がぐっとワンクッション置いてノーステップでシュート。これが増川とバヤリツァの股をすり抜けてコースが変わり、楢崎の指先をすり抜けてゴール!
で、これって前半貴章がドリブル→シュートに行ったシチュエーションと同じような「タメ」だったんだよな。スカパーの実況では「ちょっと迷いがあった」って言ってたけど、アレってそうじゃないと思うんだよな。あれが貴章の間なんだよね。前半のようなドリブルって去年のアウェーFC東京戦でも見せている貴章の武器の一つだけど、ああいうミドルシュートっていう選択肢は今後の彼の可能性を広げるかもしれない。これまでトライ&エラーを繰り返して成功したものを自分の武器として取り込んできた貴章なら期待していいと思う。06年のアウェー清水戦で決めたのをきっかけに「貴章ゾーン」を確立したようにね。

で、後は相変わらずの運動量で相手を潰しまくり、最後に巻弟、サカマガの名鑑の好きな芸能人欄に「山田花子」と書いて見事滑った、でお馴染みの巻弟の決定的なヘッドを許して肝を冷やすもののそのまんまうっちゃって試合終了。見事な試合だった。
しかしこの試合の新潟ベンチは一枚も交代を使わなかった。選手を替えても流れを変えられなかったピクシーと、頑として動かず最後まで流れを切れさせる事なく戦わせた淳さん。その辺のベンチワークの勝利でもあった。


さあ、今の流れは最高だ。でもこれをあっけなく萎えさせるなんて絶対に許しちゃダメだと思う。とりあえず次節のマリノス戦でこの順調さをしっかり勝利に、勝ち点3に繋げよう。相手は相性が良くないとは言え、すっかり手負いのマリノス。何が何でも絶対に勝とう。もっともっと上を目指していいチームのはずだ、今年の新潟は。