ウディ・アレンの夢と犯罪

俺様採点:僭越ながら5点をつけさせて頂きます。

間違いない。やっぱりウディ・アレンの魅力とはスピードと過剰な執着を取り払ったドライさだ。彼の作品にはアイロニーやセックスや悲哀やその他諸々のありとあらゆる人生が描かれてきたけど、ここ40年近くほぼ毎年一本のペースで映画を撮ってきたウディ・アレン本人にとっては、クランク・アップした瞬間にそのありとあらゆる人生は、もう過去のものになってしまうんだと思う。そのペースこそがウディ・アレンの核そのものなんだろう。去年からウディ・アレン作品を最初から公開順にずっと観直して来たけど、やっぱりそれは間違いないと思う。
そういう意味じゃ、「これ以上の物は作る意味がない。もうやりきった」として今日解散を選んだゆらゆら帝国の潔さとは、全く逆のベクトルで潔く力強い姿勢だよね。
で、最近のウディ・アレンは本当にその傾向が強い。今回やっと日本で公開された今作に併せて日本のメディアに配布されたインタビューでも語ってるけど、映画を撮る場所がニューヨークじゃなくなっただけで、それ以外の生活のサイクルは不変なんだよね。今やあのじいさんに怖いものなんてない。だってハリウッドにサヨナラ、ニューヨークにサヨナラして、ロンドンに渡って一発目の「マッチ・ポイント」で何を描くかと思ったら「人生は全て運。ザッツオール!」だからね。今まで凄まじい勢いで色んな角度から人生を切り刻んで来た男の選択が、これだった訳だからね。


この映画でもそのスピードは相変わらず。ウディ・アレンの作品の中では極めて珍しい「男二人、しかも兄弟」の話だけど、その物珍しさに目が惹かれる間もなく、いつものウディ・アレンのスピードにどんどん飲まれていってしまう。そしたら後は、強欲とその強欲を成立させるための背徳の旅にご招待、で最後まで突っ走る。ウディ・アレンの映画を楽しむって事は、つまりそのスピードにどっぷり飲まれるって事だ。
その強欲の正体が、ハイクラスに憧れる労働者階級のエゴ、って所にイギリスらしさを感じるものの、「ハイクラスに憧れる凡人」ってモチーフはずっと前からウディ・アレンが一つのドラマツルギーの武器として備えてる物だから、そこに「場所」や、ましてや「時代」なんて要素が入り込む余地もなく、ただ物語をぐいぐい動かすファンクションとして働く。老練の業が見事炸裂してる。
あ、そうそう忘れてた。フィリップ・グラスの音楽は大変素晴らしかった!ぶっちゃけ、ウディ・アレンの映画で「音楽がいい!」って感想を持つ事ってあんまりないんだけど、この作品では音楽が凄く重要なポイントになってる。フィリップ・グラスの老練さってウディ・アレン作品と凄く親和性があるんだね。


だから正直言うと、ここ最近のウディ・アレン作品って最高に面白くて外れなしが続いてると思うんだけど、どんどん「ウディ・アレンファンだけのもの」になってる感は否めないと思うんだよね。
だけどさ、それでいいじゃない。74歳になっても40年間毎年1本のペースを作り続ける爺さんと、それを心待ちにしてるどんなに少なく見積もってもウン百万人の世界中のファンだけの関係になったっていいじゃない、ねえ?なまじポピュラリティを獲得しようとしたせいで晩年を汚しちゃう大物監督、いっぱいいるじゃん。絶対にそんなにならないと言い切れる、ウディ・アレンのマイペースは素晴らしいと思います。これからもがんばってくれ、爺さん。