【レビュー】10年第14節 仙台戦@ユアスタ

ベガルタ仙台 2-3 アルビレックス新潟
スタッツ
黒崎久志監督 試合後コメント

ルシオ劇場。マルシオの一人芝居かもしれない。だけど、照明や脚本やメイクや衣装と言った裏方が素晴らしかったからこその、名舞台。


試合開始早々は新潟ペース。前線で貴章、ヨンチョル、ミシェウがアクセントになってボールを受けて展開し、ゴートク、大伍の位置もそれに連動して高く、サイドで起点を作って相手を押し込む事に成功。で、それに対する鎌田とエリゼウの足元の怪しさもあって、ゴールの匂いを漂わせながら攻め込んでいく。
ただ、仙台もサイドにスペースを作るものの真ん中ではしっかり締めるので、ペースは握るものの新潟がシュートを打つシーン自体はごくわずか。
その流れが変化していったのは、15分にリャンが切り返して左足でミドルを狙ったシーンあたりから。この辺でもうはっきり見えたのはズバリ新潟のラインの低さと、前線と後ろでの乖離。前節のセレッソ戦の最初でも顕著だったような、4バックと2ボランチが過剰に引いてしまって、チーム全体のバランスが非常に悪くなり、高めの位置でプレスが掛からない状態。その結果仙台の選手が中盤で浮いてしまって、簡単に前を向いた状態でボールを保持されてしまうシーンが頻発。そのリャンのシュートも結局そこで、ボランチが前に行けないスペースを簡単に使われてしまった。
で、クロさんの試合後コメントでまさにドンピシャ言及してた所なんだけど、このバランスの悪さは新潟のビルドアップの部分にも大いに影響する。つまり、ボランチが下がってるので、ビルドアップの時に中盤センターの高い位置で起点が作れず、サイドバックが持った時のパスの選択肢が狭まってしまい、効果的なパス回しが出来ない。ミシェウがそのセンターの位置まで降りてきてボールを受けるってシーンはあったのだけど、結局その降りてくるまでに時間を要してしまうので、相手の守備に余裕を持って対応されてしまい、脅威を与える攻撃が出来なくなってしまう、という悪循環。
前半の決定的なピンチ、25分にリャンに裏を抜け出されたシーン、そして36分のパク・ソンホのゴールは、両方ともこの高い位置でプレスが掛からないバランスの悪さを突かれて、バイタル付近で浮いた選手にセンターバックがアタックに行くかラインに留まるか、っていうギリギリの判断の所で生まれてしまうギャップを突かれた形だった。ぶっちゃけ両方とも千葉ちゃんが前に行った所のギャップを突かれてしまったんだけど、よくあれだけバランスの悪い中で、この2度の決定機だけで凌げたと思う。千葉ちゃんは相当に我慢して我慢して切れずにプレーしてくれた。永田さんもそのバランスの悪い中で、頑張ってパク・ソンホフェルナンジーニョのポイントを良く消してくれてたよね。相手が常に簡単に前に向く状況をガンガン被弾しながらも、大きく崩れなかったのはこの二人の貢献が大きかった。



そして怒涛の後半。
まずクロさんがやってきた対策は、左のヨンチョルとトップのミシェウを入れ替えた事。これは文句なしの名采配だったと思う。ヨンチョルが前に入ることで、彼が走る事でボールを引き出せるし、ボールを持てるのでそこでポイントになれる。そしてカウンターの時には真ん中で先陣を切って後ろの選手のフォローを引き出せる。貴章だけでなくここで一つ前を向いて相手に常にプレッシャーをかけられる選手が入った事は本当に大きかった。
開始40秒で貴章が手にしたPKもその形の影響と言っていい。前線に走り出すヨンチョルめがけて千葉ちゃんからロングフィードが出る、という前半ではほとんどなかった形から、そのセカンドボールを貴章が拾って、コントロールして、後はその結果生まれたスペースにドリブルで侵入する決定的な形を作って倒されてPK。見事。
これをマルシオが決めて、劇場の開始ブザーが鳴り響く。

後半はほぼ完全に新潟ペースだと言っていいと思う。そのミシェウとヨンチョルの位置変更による前線での起点作りに成功した事、そしてクロさんのコメントにあったようにボランチの一枚が前にポジションを取る修正を加えたことで、明らかに前からのプレスの部分、そしてビルドアップの起点と言う意味でも、いい流れを作る事が出来た。素晴らしい修正だったと思う。
しかし58分、事故が起きる。高橋が抜けだして振り返りざまにシュートを打とうとした所でそのボールを抑えに行った東口。ボールは東口が先に捕らえたのだけど、その高橋の振りぬいた足が東口の顔面に入ってしまう。そのアクシデントで東口→黒河。
これは好リズムが生まれてきた所で冷や水をかけられかねない展開だったけど、それでも流れは新潟が掴んだまま試合は進む。特にこのあたりから、前線と中盤センターーで起点が出来た事により、大伍が高い位置でボールを受けてサイドで実に効果的な起点を作れるようになって、何度もいいクロスを放り込む事に成功。この形が出来てからは、ずっと仙台の守備陣を呼吸困難に追いこめていたと思う。素晴らしかった。
で、そのいい流れの中、勲が相手のミスを狙って前に詰めた所で菅井のファウルを受けて68分、FKゲット。
ゴール裏から見てて、マルシオがキックを放った瞬間、林が右に動くのが見えたので、その時点で「あ、入った」と思ったのだけど、ボールがゴールネットを揺らした時はあまりにあっけなく、そしてあまりに美しく収まったので一瞬呆然としてしまった。いやいやいや、これは明らかに現実。マルシオの2つ目の魔法が爆発した瞬間だ。完璧な弾道と、完璧な状況。


しかしその直後、仙台がCKからエリゼウのヘッドで同点。この試合、後で見直して思ったんだけど、多分いつものマンマークじゃなくてゾーンっぽく守ってるよね。でも完全に上手くいってなかったよね。何せよ2試合連続でCKから失点しているというのは最悪。まずは何よりここを修正しないといけないだろう。

しかし新潟のいいペースはそれでも萎えない。74分にはヨンチョルがカウンターの先陣でするすると抜けて、左のミシェウに決定的なパスを出すもののミシェウはシュート打てず、っていうシーンを作って応戦。
72分、仙台は流れの悪さを打開するためか、パク・ソンホに変えて中島。走れる選手を入れてくる。そして立て続けに78分、慶行→ミカ、高橋→永井。83分、リャン→鷹。お久しぶり。86分、ヨンチョル→オオシ。一気に両チームとも交代を使いきって勝負に出る。
この辺では互いに間延びした展開になってくるのだけど、決定的な形は新潟が多く作る。88分には大伍の完璧なクロスを貴章が完璧に抜けだして完璧にフリーになって、完全に枠を外す。
アディショナルタイムは脅威の8分。91分、マルシオのFKから大伍がヘッドを放つもふんわりとしたボールはクロスバー。93分、右CKの崩れからマルシオ→センターのミシェウがシュートも仙台DFが体を当てて防ぎ、またしてもCK。
もうこのあたりからゴール裏はずっと戦え新潟を歌っていたのだけど、この怒涛のセットプレー連発で仙台を押し込んできたあたりから、明らかに行けるっていう確信を持って、どんどんと声量が増して行ったように思う。そして、多分ピークがあのCKだったんじゃないだろうか。正直、全身汗でビショビショで、もう半分くらい息が切れながら絶叫しながらどんどん湧いてくる音の塊に、マルシオがCKを蹴る前から「あ、これどっかで入るわ」って気がしてたもの。これは後だしジャンケンなんかじゃなく、あの現場にいた人なら少なからず同意してくれると思う。
94分、マルシオが蹴った右CKは、嘘みたいな弾道を描いて全ての選手をすり抜けて右サイドネットに突き刺さる。文句なしで、新たなアルビレックス新潟レジェンドが生まれた瞬間だった。皇帝マルシオ・リシャルデスが皇帝である理由をまざまざと見せつける特大の魔法は、アウェイ側を爆発させ、そびえたつ壁のような熱気と湿気の分厚い層をすべて吹っ飛ばしてしまった。


その後、ミシェウが決定的な1対1を外したり、またしても雑なセットプレーの守備からピンチを招いたり、って事がありながら試合終了。

真夏を乗り切るという課題。それこそが今年こそ乗り越えるべき壁。その1歩目を踏み出すきっかけになる試合なのは間違いない。もう歩みを止める暇んなんて一切ないぜ。次も行くぞ!!!!!!!!!!!!!!