「ゴダール・ソシアリスム」「アンチクライスト」「シリアスマン」

俺様採点:4
あの地震以降、なんだか映画を観るという発想にさえならなかったのだけど、映画館がばんばん潰れる中でそんなんじゃ駄目だろう、って事で映画生活再開です。
という事で再開一発目でこれを観たんだけど、大正解だったな。圧倒的な映像と音の洪水。引用と宣言がぶつ切りにされて投げつけられる、その行為自体が物凄く享楽的。まるでファウストやテープ・ビートルズを聴いてる時みたいだ。
ゴダールは本当すっげえ爺さんとしか言いようがないな。キチガイだ。インテリキチガイだ。


俺様採点:4
ラース・フォン・トリアの映画は問題作と評されるものが多いけど、実はテーマが明瞭な映画ばっかりだと思うんだよね。『奇跡の海』だったら信仰と献身について、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』だったら人生の目的について(だからセルマの唯一の人生の目的である息子の手術成功=ハッピーエンドなんだよ、あの映画は。悲劇じゃない。)、『ドッグヴィル』なら村社会について、ってね。
そしてこれが何のテーマかと言えば、ズバリそのまんま「反キリスト教」って事だよね。何も斜めから見る必要はない。これはそのまま受け入れればいい。
作中には膨大な数のキリスト教的なタームに関する暗喩が詰め込まれている。例えば最後で夫が食う野いちごはエデンの知恵の実のモチーフだし、それを食った直後に見えてしまった、あの悪夢のような山小屋に集まってくる人たちは、信仰と教会に救いを求めてやってくるキリスト教徒そのものだ。そしてそこには完全に監督の「お前らそれでいいの?」っていう視座が存在してる。また、キリスト生誕に現れた3人の賢者⇔死滅を呼び込む3人の乞食のように、善とされるものをひっくり返して悪として描いたり、キリスト教におけるタブーであるセックスを激しく描写する事で、徹底的にキリスト教の歪さを描き出して見せる。セックスが原罪になってしまったにもかかわらず、セックスに逃げざるを得ないというパラドックスを抱えた女を、キリスト教は弾き出してしまうのだから。
だから、これはカンヌで非難されたような「女性嫌悪」の映画ではない。むしろ女性嫌悪の姿勢を体系的に持っているキリスト教に対する疑問を描いた作品だ。「女も救えないような宗教」を批判した映画なのだ。
その骨格があるから、特にエキセントリックな映画だとは思わない。映画的な意匠に満ちた(プロローグとエピローグはホント素晴らしい)非常に良く出来た文芸作品。


俺様採点:4
面白かったー!コーエン兄弟汁全開のいつも通りのコーエン兄弟作品。「色々な出来事が降りかかってくるけど、まあいいじゃないか、おわり」っていう、不条理だけど気持ち良すぎるアレだ。
だからこの作品の肝って実は、歯の裏のメッセージが気になって仕方なかったのに、最終的にどうでもよくなってしまった歯科医の話と、最も偉大だったはずのラビがジェファーソン・エアプレインのメンバーの話を始めるシーン、とか、そういう事なんじゃないだろうか。



ところでこの映画のコーエン兄弟自身の手によって編集されたという予告編が秀逸