this is pop music!!!

二階堂和美のアルバム

二階堂和美のアルバム

はい、文句なしに大傑作です。今まで圧倒的な声のパフォーマンスを聞かせるライヴや、違法(ryカバー集等では素晴らしい才能を見せてきた二階堂和美というアーティストのキャリアにとって、唯一今まで不足してたのが決定的なオリジナルアルバムの存在だったと思うんだ。しかしもうこの1枚で全てOKでしょう。二階堂和美という才人の魅力をどう音源の中に詰め込むか、って事を完璧に把握した作品。
さて、というわけで全曲レビューなんてしてしまいますか。たまには。

  • 1.レールのその向こう

以前からのライヴの定番曲がようやく音源としてお披露目。ライヴではギターと歌のみで描かれていたこの曲は、ピアノとギターの違いはあれどPLUSHの「More You Becomes You」の空気感に似てるなあ、と思っていたんだけども、このアルバムではピアノ一本のアレンジに変わっている事もあってその思いを新たにした次第。盛り上がるハイトーンのヴォーカル部分にうす〜くリバーブかけたりするのも何だか共通点を感じる。
「脈拍」と並んでメロディで殺せる名曲。

  • 2.なみだの色

まず、お恥ずかしながらRUBYORLAというミュージシャンの存在を知らなかったんだけど、非常に素晴らしい仕事してます。このアルバムのベストトラックの一つといってもいいだろうね。
今までニカさんの声が乗っかるのはギターやピアノが多かったけど、柔らかいエレピの上に乗っけてみたら、はい、最高のユニットの完成。ちょっとアブストラクトなビートの上で流麗に踊りまくるニカさんのヴォーカリゼーションと、次々に飛び込んでくる多彩なサンプリングネタ。何だか狭い部屋の中でも蜃気楼が見えてくる。

  • 3.あの子のあの頃

これもライヴでよく聴いた曲。エレクトロニカ・ミーツ・女性ヴォーカル、って組み合わせはもはや基本中の基本だしちょっと食傷気味でもあるんだけど、その声がニカさんの声だと新鮮に聴こえて来るから焦る。そうだよな、日本の音楽はまだ二階堂和美という才能を残しているじゃないか。もっともっとニカさんは外へ向かっていってほしいなあ、とこれを聴きながら思った。それこそオリコンチャートや、放課後の女子高生が集まるカラオケボックスにまでね。

  • 4.今日を問う part2

はいはいはいはい!!文句なしに今作のハイライト。今作のエンジニアであるツボイ氏の鬼才が爆発。もう何を言っても無粋になりそうなので多くは語りません。皆でつべこべ言わずに聴きましょう。そして踊りましょう。二階堂和美のヴォーカリストしての才能やテクニックが全て詰まってる。
しかしこの曲世界で3000万枚くらい売れないかな。そして世界中誰もが知ってるスタンダードナンバーになればいいのに。

  • 5.アイレ可愛や

笠置シヅ子のカヴァー。何と言うか粋な演出するなー。笠置シヅ子から二階堂和美へと日本の歌姫のバトンの受け渡しの瞬間ですかこれは。もー何だかこそばゆいわ。イルリメの手による奇怪なトラックはその照れ隠しのようにも聴こえて来る。

  • 6.いてもたってもいられないわ

SAKEROCK偉い!歌謡曲の歌い手としての二階堂和美の魅力を後ろからニヤニヤとサポートするそのセンス。脱帽でございます。イルリメのソングライティングも素晴らしい。
火照っちゃって、踊っちゃって、わ・す・れ・さ・せ・て!
上がっちゃって、困っちゃって、や・ぶ・れ・か・ぶ・れ!

いてもたってもいられないのは、聴いてるこっちの方だよ、ホント。

  • 7.long torch song

今作で唯一のギター一本の弾き語り。一番の聴き所はサビの「ばいばいばいばい」の連呼だろうね。色んな「ばい」を聴かせてくれる。特にニカさんがライヴで垣間見せるちょっと幼い感じの声、あの声がふっと浮かび上がってくる瞬間は本当にエロティック。
それで歌われる歌詞が「ベール隠されてる方が良かったんでしょ 近かったんでしょ ばいばい」である。そんなドキドキするような拒絶を挟み込んでくるイルリメのセンスも輝いてます。

  • 8.Lovers Rock

今作で唯一PVを作成した、シングル的な扱いの曲。ここでもSAKEROCKの才能が光ってる。
サケロックの魅力って、スウィングしまくるアッパーな曲と、この曲みたいなゆらゆらとしたゆる〜い曲の両極端にあると思うんだけど、「いてもたってもいられないわ」で前者、この曲で後者として発注するあたりに、ニカさんの戦略家としての一面を見た。非常に正しい選択だと思います。そしてそれに完璧な形で応えるサケロック。ミュージシャンシップの高さを思い知らされるな。
本人のコメントでは「お酒のCMで流れてたらいいなー」って事だけど、うん、まさにそんな感じだ。
しかし「愛したい気持ちと 愛されたい気持ちが 追いかけあって戸惑い 確かめあっているのです」っていい歌詞だな。素晴らしい。

  • 9.絵空葉書

朋友・テニスコーツのさやちゃんが非常にいい仕事しまくっております。ニカさんも雑誌のインタビューで言ってたけど、この曲はミキシングの大勝利。さんざん共演してニカさんの声のキャラクターを心得た人間だからこそできるミックスだな。左右では旦那のギターが揺らめき、ど真ん中に鎮座するヴォーカルと、それに添えられたオルガン。ヴォーカルが盛り上がるのに呼応して浮かんでくるドラムとピアノ。ウェルメイド!

  • 10.虚離より

レイ・ハラカミ×二階堂和美。この曲もライヴでよく披露されていた曲。この曲は最後の「声に出すと不味い」の連呼が印象深い曲なんだけど、その一番の盛り上がりどころでいつも通りのハラカミな音とビートが炸裂する。その分かりやすさ。そうそう、このアルバムにおいてはそれでいいんだよ。ハラカミさん、分かってるじゃない。
ハラカミのサウンド・プロダクションはもちろんのこと、コーラスワークが特に美しい曲。

  • 11.Temperature of Windowside

正直言ってこの曲は蛇足じゃないだろうか。レイ・ハラカミのひんやりした世界観から小品を挟んで最後の赤犬の底抜けのポップネスで終わるのが理想だったような気もするけど。

  • 12.カーテンコール

ニカさんの自作自演による奇怪な小品。丁度前作「またおとしましたよ」の1曲目「コーナーフラッグ」のような、ニカさんのヴォカリゼーションの多重録音によるおもしろソング。

  • 13.日向月

この曲は本当にいい曲。素晴らしいメロディと歌詞。そしてそのいい曲を赤犬が丁寧にポップミュージックとして完成させてる。いいね。このアルバムは二階堂和美が最高のポップソングを浪々と歌うアルバムであることをしっかり分かってる。だからこそこの曲を最後に持ってきたんだろうね。こんなゆるやかなポップネスに包まれて終わる。なんて幸せなアルバムだろ。