【レビュー】09年第12節 神戸戦@スワン

アルビレックス新潟 2-0 ヴィッセル神戸
スタッツ

それまで順調で来ていたチームが一気にかつてない高みまで達したり、また全く新たな局面にまで進出したり、そういうきっかけになるゲームってあると思うんだよね。この試合はもしかするとシーズン終了後に、いやもしかすると数年後に、そういう試合だった、って評価を下される試合になるかもしれない。そのくらいのゲームだと思う。このチーム、もっともっと強くなるぜ。



試合の立ち上がりからまず両チームとも苦しんだのは豪雨の影響。もう序盤からパスミス、トラップミスのオンパレードで、神戸の選手なんてハンドを連発して取られちゃう。なので、最初はとにかくボールが落ち着かない展開だったのだけど、そんな状況を逆手に取ったのか、もしくは試合前の練習で怪我をして急遽キム・ナミルボランチ・田中が左サイドではなく、田中がボランチ・馬場が左サイドに変わったアクシデンタルな要素を狙ったのか、うっちーがめちゃくちゃ高い位置を取る。
この形、結論から言うと次第に終息してしまうんだけど、序盤戦はそれが奏功。4分にはびっくりするくらいノーマークでDFラインのギャップを突いたうっちーがGKとの1対1になるもシュートは正面、って形を作ったり、マルシオ、貴章、うっちーの3人にオオシが顔を出してパスを繋いでリズムを作っていく。


ただ、神戸も馬場がロングループシュートをトライして、それを北野が見事なセーブで弾き出したあたりからリズムを掴み始めてゲームはちょっとイーブンな流れに。それとこの時間帯ではマルセウセンターバックをうまく引き連れながら中盤まで降りてきて、クサビのボールを受けるってプレーが出始めてリズムを作る。しかしこのマルセウって選手はそのプレーだけは上手いよな。ヒロシのミスからちょっとおぼつかない感じで左足シュート打ったあたりは「そんな無理すんなよ」って思ったけど(梅山議員にも「左足苦手なんですかね」って突っ込まれてたなw)。
でも、そうやってフラットな流れに戻りつつある中でも、ボールを奪った後の新潟の攻撃の威力は相手を脅かすには十分。特に20分過ぎからはペドロとヨンチョルという「新潟の新しいユニット」が左サイドで相手を突っつくプレーを繰り返し、今年の神戸で最強の武器と言っていいイシビツと右サイドハーフ(この試合ではパク・カンジョ)という右のユニットの攻撃力を、こっちの攻撃力で抑え込んで、流れを相手にイーブン以上には絶対に渡さない。それとこの試合、今年の新潟には珍しくシュート数が結構多かったけど、相手に向かい始めた流れをシュートという形で無理やりこっちに引き寄せるというタスクが出来始めてる印象を受ける。いいじゃんいいじゃん。


それとこの試合で印象的だったのが、勲からのオオシへの縦パスがバッチンバッチン通りまくってたところ。あーこれ、このレビューのどこで言おうかと思ってたんだけど、ここで言っちゃおう。
この試合の勲、凄すぎ!!
いやー、この試合の勲は鈴木淳体制になってからで言えば五指に入る内容だったと言っていいんじゃないだろうか。なんかもう、ベッケンバウアーだったもの、この試合の勲ww今年の勲は「相手にとって『このパスが通れば絶対チャンスになる!』って確信したパスとか『これが通れば楽になる』ってパスを狡猾に潰す」ってプレーを当然アベレージとしてやるべきプレーとして毎回やってくれてるけど、この試合のそのプレーの質は本当に出色だった。かつ、そこから前線へのパスがいちいち的確。
で、前述のオオシへバシバシ通る縦パスの回数の多さなんだけど、これなんでこんなに通りまくったんだろう?ってずっと考えてて、神戸のボランチが急遽変更になった影響や、クサビを受けるために降りてきたオオシをマークする仕事を担当してた宮本が前半にイエロー貰ったから?とも考えてたんだけど(まあ多分それも一因だけど)、勲のコメント見たら合点。
「相手フォワードと中盤の間でボールを受けようと思ったが、パスコースを消されていたので、意識的に最終ラインに入りつつ、そこからくさびを入れる事が出来たと思う」(モバアルより)
だって。勲はマルセウが降りてきて中盤のスペースがないことを即座に判断して、あえて彼よりDF側に近い位置という、オオシや前線へのパスコースを確保しやすいポジションを取ったんだってさ。天才www
間違いなく、今年ここまで毎回一番面白い選手コメントを出してくれるのは勲だと思うんだけど、このコメントにはホントやられたわ。すげーよ勲。マジで。今日はもう全力で絶賛させてくれww



という事で神戸の流れになりつつある流れを強引にこっちに引き戻しながら前半終了。勝負は後半へ。



後半の序盤はほぼ互角の流れでスタート。新潟はヒロシが珍しくドリブルで突っかけてチャンスを作ったり、ヨンチョルが中に切れ込んでシュートのトライを見せたりする一方で、神戸は新潟のミスに上手く付け込んでシュートを放つ形を見せる。
で、先手を打ったのは淳さん。53分、ヒロシに替えてジウトン。わーお、淳さんはこれまで攻撃のオプションとして、単純にサイドバックを入れ替えるって交替策を打った事ってあったっけ?ほとんど記憶にないよ。でも、それが出来るのが今のチームなんだよね。ジウトン、うっちー、ゴートク、松尾、ヒロシ。みんなそれぞれ特徴があって、オプションとなれるサイドバックだもんな。うん、やっぱこのチームもっと強くなれるよ。間違いない。


で、そのジウトンが元気いっぱいに走り回ると(それが直接の要因では思うけどw、ベンチのメッセージはこれ以上ないくらい伝わってたよね)、新潟が一気にペースをつかみ始める。
57分にはCKのこぼれを勲が見事なボールコントロールジウトンに叩いて、ジウトンが完璧なクロス→貴章の頭にドンピシャだけど、オフサイドってシーンを作ったり、65分にはペドロが北本とイシビツの間を信じられないような超絶技巧で抜け出してGKとの1対1を無理やり作り出して決定的なシュートを放ったりと(あのペドロは凄すぎ!!!!マジで鳥肌立った)、いい形を作って相手を押し込んでいく。


対する神戸も動く。66分、カイオ・ジュニオールが選んだカードはマルセウ→吉田、パク→岸田。これで茂木が1トップ気味に張り、その下に吉田と岸田と馬場を並べるという、システム的に表記すれば4-2-3-1のような形に。
で、この交代が当たる。その茂木の後ろの3枚がワイドに張ったり、中盤で上手い形でボールを受けて前を向いたりすると、次第に新潟の中盤が開き始める。そうなると前線へのクサビのパスが上手く通らなくなり、前線の手前でボールロストして相手の反撃を食らうというシーンが目立ち始める。
ただ、神戸にとって不運だったのはこのいい感じ流れになってきたところで宮本が故障して小林を投入せざるを得なくなったところ。多分、前半からの神戸の時間の使い方を観てると、神戸にとってはある程度の時間が過ぎたら引き分けも視野に入れるって戦いを取ってきたんだと思う。もしくは、この流れを維持してどっかで得点を取ってそれを守って逃げ切るか。ベンチにはどこでも使える近藤や、中盤のオプションにはなるアラン・バイーアという選手もいたしね。ただ、このトラブルでそのカードを失ってしまった。


とは言え神戸にとっては、その流れを維持できればどっかで得点を獲る可能性もゼロではなかったと思う。ただ、淳さんの次の交替策がその可能性をすべてぶっ壊した。74分、満を持してヨンチョルに替えて、「この試合の主役」松下年宏投入。


この交代の意図として、淳さんは「空いてきた中盤を埋めるため」「セットプレーへの期待」の2つをコメントで挙げてるけど、結論から言えば2つともドンピシャ。逆説的に言えばヨンチョルの台頭で生まれた松下というオプションが、これ以上なく発揮された交代だったと言えるだろうね。

まずその交代の狙いが実ったのは78分。右サイドちょい遠めという松下が最も得意とする位置からのFK。これ佐藤藍子乙になっちゃうけどさ、この試合で神戸がサイドからのFKで見せてた「真ん中でフラットなゾーンを作る」っていう守備の形、あれあぶねーだろって思ってたんだよね。だってあれニアに一枚走られたらオシマイじゃん。・・・って思ってたら松下の最初のプレースキックは見事にそのニアへと飛び、そこにあまりに予想通りにニアで完全にフリ−になれた千代が、斜め後ろからの低いボールをフリックオンしながら球威を落とさずにゴールに叩き込む、っていうウルトラC難度のヘッドをかまして先制!!!千代愛してる!!あれは凡庸なセンターバックじゃ絶対無理だわ。


で、その後はもう一つの松下投入の狙いである「中盤を埋める」ってタスクを松下が実に忠実にやってくれる。神戸は失点後も、松岡あたりが前線へと抜け出す意図を見せたり、サイドで起点を作ってバイタルエリアへと展開しようとするんだけど、そこを巧みに松下がスペースを消して、相手の攻撃の狙い目を摘んでいく。お見事。


そして松下が何よりも素晴らしかったのは、その淳さんが望んだ2つの仕事を完遂した上に、オマケの、いやオマケと呼ぶにはあまりにも極上すぎる3つ目のプレゼントをチームにもたらしてくれたって所。
87分、右サイドでうっちーとマルシオとオオシが絡んで、完全に神戸の左サイドを攻略・突破してマルシオが入れたクロスのこぼれ球を、松下が拾って完璧なミドルをゴール左隅に突き刺す。2-0。完全に勝負あり。わんちゃん、アンタ最高だよ!!!!!


もうその後はフィエスタ状態。ペドロがDFラインを抜け出してGKと1対1になるも判定はオフサイド(あれリプレイでみたらオフサイドじゃなかったなw)、うっちーと松尾を交替して余裕で時間を使い、貴章は90分間死ぬほど走ってたのにロスタイムにウソみたいなスピードで右サイドをぶっちぎり、どえりゃーっと走ってきたジウトンがゴール裏を煽り、コーナー付近でペドロが超絶技巧を見せ、最後は完全に死んだと思われたボールをマルシオが全力疾走でGKにプレッシャーを掛けて、その結果榎本が闇雲にロングボール蹴った所で試合終了。完勝。それ以外に言葉が見つからない試合だった。



このチームのゲームを読む能力、攻撃力、守備力の証明。そして何より、これまでベンチだった選手たちがチャンスをものにした事で出来上がったオプションが、ベンチの期待通りの、いや期待以上の仕事をしてくれたって事。もう一度言う。このチームは絶対もっともっと強くなるよ。もっともっと上に行けるよ。行こうぜ。行ける所までぶっちぎろうぜ。逡巡してる暇なんてねーよ!!