【レビュー】09年第28節 鹿島戦@鹿スタ

鹿島アントラーズ 0-1 アルビレックス新潟
スタッツ
鈴木淳監督 試合後コメント


勝てば残り6試合で首位と4差。負ければ10差。今年をただの「今までにない素晴らしいシーズン」ではなく、「Jリーグの歴史に名を残す」シーズンに出来るかどうかの最大の分水嶺である、とプレビューに書いた。そう、この試合は死ぬか生きるかの極めて重要な試合だった。
そんな試合で、プランをほぼ完璧に遂行して勝利を手に入れたんだ。文句なしで、その大きな大きな勝負に勝ったんだ。残り6試合。首位と4差。もうやるしかねーでしょ!!!
俺は今年の開幕戦のレビューで「求めよう。このチームの可能性の提示を求めよう。そして勝利を求めよう。俺たちが立ち止まってる暇なんてないよ。立ち止まってたらあっという間にチームに置いてかれちゃうぜ。」って書いたけど、今こそそれを噛みしめたいと思う。このチームは文句なしの、とびっきりの可能性を示してくれた。こっちが遅れてる暇なんてないよね。目の前の未曾有のチャンスを掴むんだよ!!




試合開始から(というか試合の多くを通して)、鹿島がペースを握る。鹿島の狙いはもう明らかで、実に鹿島らしい「サイドでの起点を作って攻撃を構築していく」という形を繰り返す。つまりここにきて、これまでずっと積み上げてきた鹿島のサッカーを完遂しにきた、って事。この辺がさすが鹿島、さすがオリベイラって所だよね。苦境を打開する為に、奇抜な事は一切しない。これまで勝ち続けてきた王者の記憶と経験で乗り切るという選択。
オリベイラ監督が言うように、そのサイドを起点とした攻撃の質はここ数試合でベストだったと言えると思う。サイドバックサイドハーフに限らず、青木あたりがガンガンサイドに絡んでボールを動かす意図が見えたし、ボールキープ率もここ数試合に比べて随分と高くなった。ただ、それ以上に素晴らしかったのが新潟の守備。


とにかく、鹿島がサイドに起点を作る動き、特にサイドバックが絡んできたところで、あっという間にそのボールサイドにプレッシャーを掛け、的確なポジショニングで相手のパスコースを限定する。その結果、鹿島にボールキープこそ許すものの、そこからシュートに直結するような勝負パスは出させなかった。
左は松下、ジウトンのユニットがまず縦のラインを構築して進路を防ぎ、それに完璧なタイミングで永田さんと勲(たまーに三門)が絡んで、守備のブロックを線から面へと膨らませるイメージ。で、ジウトンが前に出て中に入る選手について行く時は、勲がジウトンのポジションに入ってサイドを潰す。ホント何度も言うけど、こういうところの勲はマジで凄い。天才だよ。これで右の内田アツトと野沢のユニットを完全に沈黙させる事が出来た。ジウトンの守備はとてつもなく素晴らしかった。まるで守備専のサイドバックかのように素晴らしかったw
で、面白かったのが右の守備で、(これはもうこの試合の取材記者が本当に偉いんだけど)試合後の淳さんの会見でも質問が出ていた通り、この試合における鹿島のMOMと言っていいアライバがガシガシ攻めてくるのに対し、マルシオが比較的真ん中に絞っていたのでアライバが突破するコースが結構生まれていたのだけど、そこに三門がすすっと入ってきて、後ろのうっちーとのユニットでしっかりとケア。で、鹿島がサイドラインで手詰まりになった所で、センターでマルシオがプレスを掛けて相手の攻撃に自由を与えない、と。


これはもう明らかに対鹿島のスカウティングを重ねて導き出した、この試合における新潟のチーム全体の守備の基本なんだろうね。鹿島のサイドでの展開に対しては、絶対に数的不利を作らせることなく枚数を掛けてプレスを掛ける、ってのをまず第一に考えたのだろう。
でも、左に関しては多分最初のプラン通りだったと思うんだけど、さっきの記者会見を読むと、右の守備、つまり「マルシオが絞ったらサイドは三門がフォロー」ってのは、選手たちが試合中にアジャストしてスポンテニアスに生まれてきた守備なのかもね。まあ、広島戦での三門の守備エリアが右偏重だったって事を考えると、ある程度その形はチームとして用意していたんだと思うんだけど、それでも鹿島相手に的確な判断を試合中に下せたというのは全力で称賛されるべきモノだと思う。しかしこんな大舞台で、淳さんがずっと続けてきたチーム作りの一つの軸である「選手の自主性を重視する」ってのがしっかり出てきた、ってのは美しすぎるよね。
それにしてもここにきていきなり出番が回ってきた三門のプレーの質と言ったら!!技術や戦術理解といった部分って、カテゴリーが変わって相対的なレベルが上がったら、どうしても壁になる部分だと思うんだよね。実際、怪我で出遅れた事も手伝って、三門はそれに見事ぶつかってしまったんだろう。だけど、運動量だけは裏切らないんだよね。そのベースだけは、絶対に揺るぎない部分。きっとその彼の最大の特長を、やっとプロ生活にアジャストしたことで発揮できるようになったって事なんだろうね。もうどこにでも顔出してたもんな。このチームはオオシを頂点に、貴章、松下、マルシオという壮絶に走れる選手が、中盤の高い位置でプレスの先陣を切って、そこで奪ってカウンターってのが最大のウリだけど、その中に三門の圧倒的な運動量という特徴が吸収され、強度を増している印象を受ける。
てかさ、ぶっちゃけて言うとさ、開幕前に散々ビッグマウス披露してたのに、シーズン中盤で「中盤のレギュラー陣の予想以上の技術の高さを前に壁にぶつかっている。今年の目標はまず1試合出る事」とか言ってた時はマジでどうしようかと思ったぜwwwww大学ベストプレイヤーならこのくらいできるでょwwwいいぞ、もっとやれwww
マジな話、ボランチの位置でスライディングのトライに行った以上は確実に潰さなくてはならないのに、それをするっと外されて攻撃食らったシーンが何度かあったり、アライバのマークを見失って裏に飛び出されたり、ってミスがあったのは間違いないんだよね。淳さんも彼のミスで攻撃を食らったことがあったって会見で明言してるしね。だけど淳さんも言うとおり、そこを一つずつ、しかもこんな超スリリングな上位争いのラストスパートの経験の中でブラッシュアップしていけば、このチームの絶対的な軸になれるはずだよ。新潟という超ハードワークするチームにとって、三門の運動量はとてつもない武器なはずだからね。がんばれ。



で、新潟の守備でもう一つ素晴らしかったのは、鹿島に有効なサイドチェンジをさせなかった点。鹿島がいい時は、とにかくサイドで起点を作って相手を引き寄せた所で、バチーンと逆サイドに展開して揺さぶりを掛け、センターの守備が緩くなったところで勝負のクロス・パスを入れて相手の守備をぶち破っていく、ってプレーが多い。この試合でも、鹿島はそこをかなり狙っていたと思う。
ただこの試合の新潟の守備で顕著だったのは、サイドで起点を作られて全体が引っ張られてる時に、必ず逆サイドに貴章かオオシが降りてきて、サイドチェンジを繰り出すためのスペースを埋めてたんだよね。これ、この試合の新潟の守備に関して特に称賛されてしかるべきところだと思う。そこに一枚入る事で、鹿島が狙いたいサイドチェンジのスピードが落ちる。その結果、センターの守備がしっかりとポジションをセットする時間が生まれ、どんなにクロスやクサビを入れてこられても、余裕を持って対応する事が出来た。
この試合で相手のクロスや勝負パスを、ラインが歪になった状態で被弾する事ってほとんどなかったよね。それは前述のサイドの守備と、このサイドチェンジに対するプラン通りの守備が構築出来たからだと思う。それが出来たから、センターはしっかりとポジションをセットして鹿島の攻撃を迎撃できた。鹿島サイドから見たら、内容は良かったのに、って臍を噛むような意見が多いだろうけど、この試合は鹿島に対して新潟が用意してきた守備の勝利そのものだと思う。



そして、もう一つのこの試合に向けたスカウティングの成果について。それは攻撃時における、「サイドで起点を作った時や、ボールを奪った後のセンターへの素早い攻撃の有効性」って事。これ、プレビューでも書いたけど、やっぱり鹿島をスカウティングして導き出した新潟の狙いはここだった。この試合でとにかく目立ったのは、今年淳さんが散々言及してる「ボールを動かして攻める」っていうポゼッション寄りの攻撃をほぼ放棄して、サイドでサイドバックが持った時・高い位置でボールを奪った時に、とにかく早め早めに相手のラインの裏へとボールを展開する形。
この試合で新潟がシュートを放ったシーンって、ほとんどが一気に縦にボールを送るダイレクトプレーからだったけど、明らかにうっちーが言うように「相手の攻守の切り替えが遅い、ボランチがセンターをフォローしきれない」ってのを狙った攻撃を繰り返していた。話が前後するけど、59分のカウンターでオオシがポストになって落としたボールを、ジウトンがワンタッチでぼこーんと前線に蹴ったものの、キックミスで中途半端に攻撃が潰えてしまったってシーンがあったけど、あれはすっごく良く分かるんだよね。ああいう、サイドからワンタッチで前線に蹴って一気に展開していく、っていうダイレクトプレーこそ、この試合での新潟の約束事だったんだと思う。だからそのプレー見て「ジウトンなんで蹴っちゃうんだよ!!」ってブーたれてた近くのオッサンは、「淳さん!なんでそういう約束事を選択したんだよ!」って言うべきだね。
このダイレクトプレーって、ポゼッションしていくよりずっとミスになる可能性が高いし、前半から新潟の攻撃が縦に急いで相手の守備に引っかかって半端に終わる事が多かったのも事実。そしてそれが相手のポゼッション率を上げたのも、これまた事実。だけど、間違いなく試合開始からずっと続けてきたこのトライこそが、アルビレックス新潟の歴史上に残るあのゴラッソを生み出したんだよね。


28分、北野のゴールキックをハーフウェーライン付近で岩政に競り勝った貴章が落とす。それを勲がフォロー。ここでマルシオは首を振って自分の背後とバイタルエリアの状況を確認。マルシオにマークにつくのはアライバ。それを完璧に把握していたマルシオは勲からのパスをヒールで右の三門にワンタッチで流して、さっき確認したバイタルのスペースに全力疾走。その間にアライバが引っ張られて完全に空いた右サイドに走りこんで来たうっちーに、三門がワンタッチでパス。そのボールをこれまたワンタッチでうっちーがスピード、コース共に完璧な勝負のクロスを入れると、中盤の選手を全員追い越して、センターバックボランチの間のスペースに見事飛び込んだマルシオが完璧なフィニッシュ。ゴラッソ!!!!!!!!!!!!
うっちーのクロスの精度も、マルシオの斜め後ろからのボールをパーフェクトなタッチでゴールに突き刺す技術も、マルシオがパスを受ける前に首を振って完璧に状況を把握していたという事も、それに呼応して三門とうっちーが空いた右のスペースに走った事も、全てが高次元で素晴らしいこのゴール。だけど何より素晴らしいのは、前述の鹿島の弱点に対するスカウティングをチームとして咀嚼し、ずっと狙い続けた結果生まれたゴールだって事だよね。偶然なんかでは決してない。スタッフによるいい準備と、それを完遂した選手の踏ん張りの結果のゴール。だから、このゴールを「いきなり来た唯一のチャンスをものにした」ってのは違うと思う。何度も愚直に繰り返してきたトライが実ったゴールだ。このゴール、この試合の重要度を考えても、まさにレジェンドと言っていいだろうね。




試合の流れに話を移すと、後半途中までずっと前述のような「サイドを起点に攻める鹿島」と「しっかり守って縦へのダイレクトプレーをベースとしたカウンターを狙う新潟」の構図。その構図が変わり始めたのは61分のダニーロ投入あたりから。ダニーロがそれまでの本山と比べて前目のポジションを取って、より前線での起点を作るようになると、これまで積極的に高くしてきた新潟のDFラインが少し深くなる。
ただ、それでも新潟はこれまで同様サイドでの守備をキッチリと構築し、センターバックも集中してポジションをセットし、ボールを跳ね返し続け、状況によっては1点のリードを後ろ盾にこれまでの縦一辺倒からバックラインでのボール回しとポゼッションを見せ、下げられたラインを上げていく。
で、俺はここで重要なのは鹿島が次に打ってくる手だと考えながら絶叫してたんだけど、一番怖いのは大迫の投入だったと思うんだよね。ダニーロの投入によって生まれたような、より深い位置での起点を動きながら作れるのは、鹿島のベンチを見るとやっぱり大迫が一番適任。だから、大迫が入ってくる時間と状況がどうなるか、って思ってたんだけど、鹿島ベンチが選択したのは78分にコウロキ→田代。
ぶっちゃけてしまうと、俺はこれで7割くらい「今日はもらったぁっぁぁ!」って思ってたんだよね。田代の投入は明らかに、空中戦・パワープレーというチームとしての選択とイコール。だけど、新潟の守備が最も得意とするのは、こういう制空権を奪い合う戦いなんだよね。伊達に去年、シーズン32得点という貧弱な攻撃力のせいで、虎の子の一点をひたすら耐え忍んで守り続ける試合をずっと強いられてきてないってもんだよな。ゴール前に張り付けにされてガンガンクロスを入れられてボコボコに殴られるのを、ずっと跳ね返し続けてきた経験を持つ強靭なチームなんだ。これが地獄を見たチームの強さだぜ。
81分にはこの試合最大の、って言うかずっとゲーム支配されてたからそんな感じがしないけど、実は「唯一じゃね?」な決定機である、ダニーロの決定的なシュートを受けるものの、これは北野が左手一本で完璧なセーブ。難を逃れる。
で、淳さんも田代の投入と同時に、三門とゴートクを替えて守備にフィジカル的な強さを付加し、この前も書いたけど「相手の高さというオプションに対しては物凄く警戒する監督」である淳さんらしく、田代というオプションに対して83分、うっちー→松尾で高さを強化。うっちーマジでお疲れ。最高でした。で、これで4バックが全員180cm越えという状況になり、ロスタイムには松下→マーカスで更に高さを付加。わんちゃんマジでお疲れ。本当に良く走ってくれた。



で、あとはそつなく時間を使って、このまま試合終了。この重要な試合で、用意してきたプランを完璧に遂行して勝利。誰一人として、サボってる選手なんていなかった。守備で集中を切らすことなんて一切なかった。素晴らしい。


だが、ここからが勝負だ。残り6試合。俺たちは勝ち続けるしかない。「負けてはならない」じゃなく、「勝たなくちゃいけない」のだ。やるぜ。どでかいチャンスが目の前に広がってる以上、最大限の努力をしようじゃないか。