ニコラス・ケイジの顔芸はもはや志村レベル

びっくりした。何にびっくりしたって、イーストウッドがこんなに「普通に良い映画」を撮るなんて!
いやーこれいい映画だよ。凄くよく出来たいい映画だ。だけど、イーストウッドが監督してるのに、イーストウッドの男汁の匂いがしない!!びっくりだよ。「グラン・トリノ」がくさやなら、「インビクタス」はミネラルウォーターだ。
観てる途中で、ずっとそのイーストウッドっぽさを探してたんだけど、ネルソン・マンデラの人心掌握術の狡猾さ、って所に若干の匂いを感じるものの、基本的には無臭。無臭だけど、とにかく良く出来た映画なのは間違いない・・・という肩すかし感。めっちゃいい映画なんだよ。めちゃくちゃいい映画なんだけど。


いやー面白かった!「バッド・ルーテナント」=「悪い警部補」そのまんまの内容。だけど邦題を無理やりつけるなら「爬虫類は見た」もしくは「ラッキーマン」だな。ほら、ガモウひろしの。どんな敵と戦っても必ず、途中ですげーラッキーが起こって勝っちゃうヒーローモノギャグ漫画の。この映画で言えば「ただラリって、ヤバイ金の返済の工面に奮闘してたら、警部補から警部に昇進して子供も授かりました!ラッキー!」っていう。

お薬ばっかやってるし、女とハメるためだけに警察官としての正義と言う職権使っちゃうし、付き合ってる女はしっかりヤク中になってる売春婦だし、その女のせいで面倒な金を返済しなきゃいけなくなって悪い人たちに近付いちゃう。もうめちゃくちゃ。どんどんラリってる時の顔がやばくなってくるニコラス・ケイジの顔芸も含めて、もうめっちゃくちゃ。

この話、そんな悪い人間でクスリに溺れて酩酊しながらも、溺死しかけてる男を助けたり、最終的に証拠を作り上げて犯人逮捕に貢献したり、っていうそういう「善」の部分が描かれてるので、言ってみれば悪を描きながらも、最後は単純な勧善懲悪を浮き彫りにさせる手法を取った話である、って見方もできると思うんだよね。


だけど、これはもうそんなんじゃないよな。もう真面目に馬鹿を、ニコラス・ケイジという稀代のコメディアン(で、良いよね?もうこの人は)を中心に貫く、そういう潔い映画だ。だって、勧善懲悪を描く映画なら「爬虫類だけが彼の悪事を知ってる」っていうあの馬鹿馬鹿しいシークエンスなんて絶対いらないものwwそして「魂はまだ踊ってるぞ!!撃て撃て撃て〜い!!」の抱腹絶倒のシーンでも、ご丁寧にイグアナ出てくるもんな。しかもエンドロ−ルでわざわざ「iguana / gator footage by Werner Herzog」なんてクレジットまであったし。どんだけこだわりを表明したいんだよww馬鹿だなあ。めちゃくちゃだ。


そして何と言ってもラスト。色々あってなぜか上手くいって、色々と収まったけど、結局ダメで悪いまんまの自分。そこで冒頭で助けた男との運命の再会。これはどんなドラマが待ち受けるのか?!って思ったら水族館で体育座りして、「へへっ」で終わり。
素晴らしい。「笑いオチ」で言えば、サム・ペキンパー先生の「戦争のはらわた」と並ぶ・・・は、すいませんそれは言いすぎですけど、それが一瞬頭を過るような素晴らしいオチだと思う。最後に「なーんつって、へへ!」だからな。あの自嘲とも思い出し笑いとも思えるあの顔。ニコラス・ケイジの顔芸ここに極まり。


インビクタスほどヒットするはずもないし、ていうかヒットしちゃいけないと思うけどw、好き嫌いで言ったら俺は圧倒的に「バッド・ルーテナント」が好きです。