新規ディアフーフ・ファンになる可能性のある人たちへ 勝手に全アルバム紹介

前からやろうと思ってたこのエントリー。
ディアフーフというバンドは、俺が現在世界で一番好きなバンドであり、本当にいろんな人に聴いてもらいたいバンドなので、事あるごとにこのブログで話をしてきました。だけど如何せん16年のキャリアの中で数多くのアルバムを出してきたバンドなので、初めて触れる時にどれから行けばいいのか、そして最初に触れた次にどこに行けばいいのか、ってのが分からない人も恐らく多かろうと思うんです。
そこで、彼らが発表してきたアルバム(ミニアルバムも含め)全作品を紹介しようと思います。まー初期に「Dirt Pirate Creed」とか出してるんですけど、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのキャリアは「サニー・サンデー・スマイル」から数えるみたいな理屈で、俗に言われるディスコグラフィをここでは紹介しますw
物凄く長くなってしまいましたけど、分けずに一つのエントリーにまとめる事にします。検索でここにいらっしゃった人が直ぐに次のステップに繋がれるようにね。


それでは本当にいいバンドなので、是非とも触れてみてください。




Man the King the Girl

Man the King the Girl

・The Man, The King, The Girl(1997年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ロブ・フィスク

まずザックリとこのバンドの成り立ちを説明すると、ドラムのグレッグがロブと組んで94年くらいからデュオとしての活動を開始。不失者なんかを引き合いに出されるようなノイズミュージックをやっていたのだけど、そこに日本から映画を勉強しにサンフランシスコへ来たサトミさんが加入してトリオになる、という流れです。
そしてその3人体制で、4トラックのカセットテープMTRで作成された、ディアフーフとして初のアルバム。初期のノイズミュージック寄りの音楽性が色濃く出た、ジャンク色の強いアルバムになってます。そのノイズへの傾倒に加えて、ディアフーフらしいメロディックな要素や、子供っぽさ、不思議さを乗せるというこのアルバム試みは、現在のディアフーフの土台となる発想でしょうね。
それでは、今でもたまにライヴで披露される「gore in rut」を。ぐっちゃぐちゃのジャンクな音に、ばにばにばにばにばに♪のバランスこそ、ディアフーフそのもの。






Holdy Paws

Holdy Paws

・Holdypaws (1999年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ロブ・フィスク、ケリー・グッド

一曲目の一発目の音からからはっきりと分かるような録音技術の向上と(と言っても相変わらず4トラックのカセットMTRで録音されてるんだけど)、前作よりもずっとメロディックに、ポップになったアルバム。前作のようなノイズ成分はずいぶんと控えめになる分、元々楽器経験のないズブの素人であるケリー・グッドが弾くCasio VL-1のヘロヘロの音色がぐっと前に出て来る感じは、その後のディアフーフのドラム、ベース、ギター以外の音のアプローチの原型が見える感じですね。
しかし今回、改めて聴き直したらやっぱこれいいアルバムだなあ。この後のアルバムが凄すぎて無視しがちだけど、ここにダイアモンドの原石を見出すことは容易だと思います。







Half Bird

Half Bird

・Halfbird(2001年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ロブ・フィスク

ディアフーフと言えばKill Rock Starsからのリリースであり、最新作でpolyvinylにスイッチするまで15年くらいずっとKRSだったわけだけど、その間のアルバムで唯一その他のレーベル(Menlo Park)から出た作品。アルバム以外なら、ミニアルバムの「緑のコズモ」が同じくMenlo Parkから出たり、オーストラリアのdualpLOVERから「Koala Magic」っていう5曲入りのライヴアルバムがあったりするんですけどね。
そのせいなのか、なぜか彼らのディスコグラフィから忘れられる事も多いこのアルバムだけど、ジョン・ディートリックが加入して、ディアフーフにしか使えない魔法を手に入れる前の、初期ディアフーフの集大成として重要な作品だと思います。
というのも、ノイズ上がりのバンドらしいちょっとシリアスだったり耽美な感じが割と多めでマジメな「The Man〜」や凄く真っ当なロックアルバムとも言える「Holdy〜」に比べ、アホ度が高いからです。真面目な話ですよ。アホなんです。マジでこの「アホ」ってのはディアフーフにとって非常に重要な要素で、彼らと凡百のロックバンドを分ける決定的な差はそのアホさ加減です。この場合の「アホ」は珍奇さや、自由さや、キュートさ、と言った色んなものを包括したものですけど、とにかくそういった「普通のかっこいいロックバンド」じゃ持ち得ない要素こそが、彼らの魔法の正体そのものなわけです。
例えば2曲目の「Six Holes On A Stick」。このタイトルを観てなんのこっちゃと思うわけですね。そんで聴いてみるとベコンベコンのギターのリフとバタバタ弾けるドラムの上に、ぴょっぴょっぴょっぴょっぴょ〜〜〜っとたて笛の音が重なって、しかもサビではご丁寧に「we are six holes on a stick, you've been blowing」って歌詞な訳ですよ。たて笛の歌なんですね。アホですね。ジャガーさんの世界観先取りですよ。自分が笛の立場の歌なんて、例えばコールドプレイなんて絶対に歌わない訳ですよww
あと「Red Dragon」や「littleness」なんかは、その後色んなアプローチで描かれるディアフーフのちょっとエキゾチック/オリエンタルで、ファンタジックな世界観を思わせてくれます。
あ、あと「Rat Attack」ではサトミさんが今じゃ考えられないくらい、ライオットガールばりに絶叫してますけど、そういった試行錯誤っぷりが垣間見えるのもいいですね。サトミさんも「これはねーなー」って思ったんでしょうね。
と、アホを強調してきましたけど、アホじゃない「Queen Orca Wicca Wind」を。これ、今でもライヴで割と演奏されますね。






Reveille

Reveille

・Reveille(2002年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック

さあ来た!!サトミさん、グレッグ、ジョンというこの後10年、現在に至るまでディアフーフのコアメンバーとなる3人がついに集結。このアルバムからディアフーフしか身にまとえない魔法を身につけたって感じですね。初めてディアフーフに触れるならば、このアルバム以降であれば基本的にどれでもOKと言っていいと思います。
とにかく聴けばすぐ分かる事ですが、このアルバムでディアフーフは完全に化けました。KRSの人たちこれ聴いて狂喜しただろうなあ。ディアフーフがやってくれた!!ってね。
このアルバムは初期のローファイな音像が残りつつも、ディアフーフらしい変拍子の使用や、ギター、ベース、ドラム以外の様々な音の挿入(電子音、ぽこぽこ鳴るリズムボックス等々)と、その音のパンニングと配置のバランスへの配慮・・・などなど、曲のストラクチャー自体が一気に複雑化しています。
その辺はジョンが弾くギターのフレーズの多様性が誘導したってのは間違いなくあるでしょうね。初期とは比べ物にならないくらい、多くの引き出しを持った彼の加入はとてつもなく大きいと思います。正真正銘の天才ですよホント。
それと見逃せないのは、これまでのアルバムで培ってきたメロディとポップネスへの取り組みが結実して、単純なソングライティングの向上だけじゃなく、そのメロディを入り組んだ曲のストラクチャーのどこに配置するかって事が抜群にセンス良くなってるという点。そしてサトミさんのヴォーカルも、ライオットガールの失敗を経てww、そのメロディを伝えるガイドとしての役割から、ディアフーフの個性そのものへと昇華する術を掴んでしまった感じですね。
ちなみに、このアルバムからクレジットにレコーディングエンジニアの名前が入ってるので、4トラックから卒業して色々できるようになって、一気に化けたってのもあるんでしょうね。

それでは今でもライヴの定番曲と言えるこの2曲を。特に「The Last Trumpeter Swan」は彼らの代表曲の一つと言っていい名曲。






Apple O'

Apple O'

Apple O'(2003年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、クリス・コーエン

アメンバー3人に、ジョンの朋友であるクリス・コーエンがギタリストとして加入して4人編成となって最初のアルバム。そしてこの4人編成こそディアフーフ黄金期の第一期なのです。
ここで4人になった事で、ライヴの時のギターを中心としたアンサンブルが豊潤さと強靭さを増し、今やすっかり定着した「超超超超素晴らしいライヴバンド」という個性を獲得していく事になったと言えるでしょう。
それもあってか、このアルバムはディアフーフ史上最もライヴの演奏に近い、鋭角的なロックアルバムになってます。実際、相当短い期間でガーッと一発録り的にレコーディングされたとの事。ディアフーフ的パンクアルバムですかね。ディアフーフのライヴでは、グレッグがスネアのヘッドのテンションをパンパンに張って演奏するんですけど(ゆえにヘッドを破っちゃうシーンを目撃した事がありますw)、このアルバムのスネアもその音に近いですね。「パン!」や「バン!」じゃなくて「カン!」に近い音です。
そして何より特筆すべきは、絡み合う2本のギターというスタイルの確立でしょう。このアルバムでは明確に2本のギターが左右のチャンネルに振り分けられて強調され、それぞれが個性を放っていくのです。
時に同じフレーズを弾いたと思ったら、次の小節ではパッと別れて一人はカッティングを、一人はサトミさんが歌うメロディをなぞる。・・・と思ったら次の瞬間は爆発的なノイズを吹き出しながらあちこちに飛びまわる、といった具合に、この2本のギターがディアフーフの変態性をぐいぐいリードしていきます。このアルバムのギターはいわゆる「初期衝動」ってやつを一番顕著に表現しているんじゃないでしょうか。
あ、余談ですけど、ディアフーフでよく見られる「ギターの一本はコードストローク等のカッティング、もう一本はヴォーカルのメロディを単音でなぞっていく」ってスタイルは、シャッグスの影響を大きく受けてると思うんですけど、どうですかね?これを指摘してる文章をほとんど見かけないんだけど、絶対あれシャッグスだと思うんだよなあ。シャッグスのトリビュートアルバムに「My Pal Foot Foot」で参加してるし、好きなのは間違いないはずなので。


とまあライヴに近いアルバムなので、ライヴの定番曲もたくさん収録されてます。「Dummy Discards A Heart」「Flower」「L'Amour Stories」そして何より!!「Panda Panda Panda」ですよ。毎回ライヴで披露され、そして毎回アレンジが変わる、彼らの代表曲です。
また余談ですけど、俺がディアフーフに恋をしたのはパンダ×3のせいです。NHK-FMの「ライブビート」の公録でマヘル・シャラル・ハッシュ・バズとディアフーフという、今考えても凄まじい組み合わせだったのを、マヘル目当てで観に行った時の事。ディアフーフが2曲目に演奏した「パンダパンダパンダパンダパン、バンブー!!!」にハートをグッチャリ、バキューンと撃ち抜かれてしまったんですね。帰り道、うわ言の様に「ぱんだぱんだぱんだ・・・」とぼやきつつ友達に「ディアフーフってすげーのがいるぞ!!」ってメールをしながら、渋谷のタワーレコードに走ったのを覚えてます。
という事でライヴ演奏でいくつかどうぞ。このアルバムでのクリスじゃなくて現ギタリストのエドが弾いてる動画ですけど。






Milk Man

Milk Man

・Milk Man(2004年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、クリス・コーエン

加賀美健の手による印象的なジャケットも相まって、彼らの知名度を一気に広げたアルバム。俺が彼らを知ったのも、このアルバムの時期です。去年フレーミング・リップスに招かれてこのアルバムの全曲演奏ライヴを行った事もあったし、ディアフーフというバンドを象徴するアルバムなんだと思います。
このアルバムを一言で言えば「ポップアルバム」ですね。実際、ソングライティングだけを取り上げれば、史上最もメロディアスなアルバムじゃないでしょうか。そしてこれはこの後ディアフーフがロックアルバムと1枚おきに繰り出してくる、エレクトロニクス寄りのアルバムの原型品とも言えるでしょう。
と言っても、この後ディアフーフが繰り出すエレクトロニクス寄りのアルバム(緑のコズモ、フレンド・オポチュニティ、ディアフーフVSイーヴル)に比べると、レイヤーが薄めでかなりシンプルな作りになっています。いや、というか基本はギター、ドラム、ベースを使用したロックアルバムなんですね。「Milk Man」「Milking」「Rainbow Silhouette of the Milky Rain」「Giga Dance」といった、ライヴ映えする定番曲も収録されてるし。そのロックの構造に、これまでディアフーフがトライしてきたエレクトロニクスの要素、オーケストレーション的なアプローチを、これまで以上にスマートに付加したのがこのアルバムだと思います。
そしてここが重要なところなんですけど、PCを使用したレコーディングと曲作りに、本作から本格的に取り組みはじめます。なんかレイヤーの重ね方とか、ドラムの質感とか、そんな感じですよね。あとギターもアンプ・シミュレーターとインターフェイスを通過したような感じだし。
ディアフーフの飛躍的な成長は、4トラックのカセットMTRからPCを手に入れるまでの過程と切っても切り離せない関係であるはず。だからサンレコはすぐに彼らにそういったインタビューをすべきだと思います。頼むよマジで!

「Rainbow Silhouette〜」はライヴバージョンでどうぞ。







Green Cosmos

Green Cosmos

・Green Cosmos(2005年)-邦題:緑のコズモ
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、クリス・コーエン

ほぼ全曲日本語詞による、7曲入りのミニアルバム。そして前作から導入されたPCでのレコーディング経験が、おかしな方向に大爆発したストレンジなポップアルバムになっています。珍奇さだったら間違いなく過去最強でしょうね。前作の「Milk Man」よりも音数も増え、ストラクチャーが複雑化しています。これは後の「フレンド・オポチュニティ」「ディアフーフVSイーヴル」に直結する方法論であり、このミニアルバムこそがディアフーフのエレクトロニクス寄りアプローチのスタート地点でしょう。
だから、これを初めて聴いた時、ライヴのアンコールの定番曲である1曲目の「Come See The Duck」のドガガガガ!っていうロックアプローチから、2曲目の「Green Cosmos」のイントロのポコチャカ鳴るパーカッションとシンセのフレーズが鳴りだした瞬間や、まさかのアラビアンポップ歌謡「Spiral Golden Town」を聴いた時はホント椅子からずっこけました。そして鳥肌立てながら爆笑しました。これまでのディアフーフを追っかけて来た人間なら、誰もがずっこけて感嘆の声を上げた事でしょう。「Spiral Golden Town」はホント凄いです。アラビアンに始まり、最後の歌詞は「霧がかるサンフランシスコの一寸先は闇。悲しみの街」ですからね。もうわけが分かりません!
で、ディアフーフと言えばグレッグのドラムの凄さが大きな個性の一つわけですが、前述の「Green Cosmos」や「Spiral Golden Town」はそれをサクッと捨て去ってリズムが完全に打ち込みで組まれています。その辺のフットワークの軽さこそが彼らの武器でしょうね。この武器が後の大傑作を生むわけです。








Runners Four

Runners Four

・The Runners Four(2005年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、クリス・コーエン

今回こうやって全アルバムを紹介してきているわけですが、「結局どれが最高傑作なんだよ!」ってちょっとせっかちな疑問を持たれてる方もいると思います。多分俺でもそう言うと思いますw
その答えを挙げるならば、この「Runners Four」から最新作の「Deerhoof vs. Evil」までの4枚のうちどれか、で間違いないでしょう。4枚もあったら最高傑作じゃねーじゃねーか!っていう方もいますよね。すいません。じゃあ、1枚だけ選べと言われたら、散々迷ってこのアルバムだと答えるでしょう。個々の曲の素晴らしさ、曲順、そしてこれまで色んなアプローチを見せてきたディアフーフの一つの集大成的アルバムであるという事。それを考えるとこれがホント僅差で4枚のうちでは最高なんじゃないかと思います。
このアルバムを最後にクリスが抜けて再びトリオ編成に戻るので、これがディアフーフ黄金期一期目の最後のアルバムであり、前述の通りの集大成です。ではどこが集大成なのかと言えば、ここまで紹介してきたアルバムの色んな個性を、うまく1枚のロックアルバムとして落とし込んだ所にあります。
このアルバムはディアフーフの「1枚おきにロックアルバム/エレクトロニクスアルバムを出す」という近作の流れで言えば、ロックアルバムに所属する事になります。ただ、このアルバムには「Reveille」のジャンクっぽさを残した音像と複雑なストラクチャーと自由奔放さ、「Apple O'」のギターアンサンブルと鋭角性、「Milk Man」の底抜けのポップネスとソングライティング、そしてシンセ類のエレクトロニクスをほとんど使っていないにも拘らず漂ってくる「Green Cosmos」のアホアホで珍奇なキャラクター・・・といった、これまで紹介してきたそれぞれのアルバムの個性を良い所取りして、非常に上手くミックスしています。
そして曲順。2本のギターによる完全人力爪弾きトレモロ奏法とヴォーカルのみの「Chatterboxes」で静かに、そして奇妙にスタートして、2曲目の「Twin Killers」になだれ込んで、ここでカタルシス爆発!!・・・かと思いきや「つい〜んきら〜〜ず」とまたしてもヘニャヘニャに外された・・・と思ったら3曲目の「Running Thoughts」のファンキーな音の洪水に飲み込まれる。そこから脱出した先にはポップな2曲(Vivid Cheek Love Song、O'Malley, Former Underdog)のお花畑。その後はクラシックで沈静な「Odyssey」が始まり、その静寂をギターリフがぶち破る「Wrong Time Capsule」からの5曲の連発はまさにアルバムのハイライト。そこが明けたらアコギを使ったりの軽快な曲が続き、ジョンが歌うまるでプログレアーティストの歌モノの小品のような「Bone-Dry」とインターバルを挟み、「Spy On You」「You're Our Two」の必殺曲を経て、最後はアホバカディアフーフ炸裂の「Rrrrrrright」で大爆発して終了!完璧!!!!!本当に素晴らしいと思います。
具体的にこのアルバムの音楽的な話をすると、このアルバムの最大の特長はベースでしょう。このアルバムではいつものサトミさんではなく、ギタリストのクリスがベースを弾いています。そしていつもギターが配置される右チャネルの位置に、どっしりとベースが配置され、非常に印象的なフレーズを連発してこのアルバム全体のグルーヴを生んでいます。何でもこのアルバムのベースのイメージはスライのそれだったとの事で、ブンブン跳ね回る非常にファンキーなスタイルになっています。まあ、楽器演奏者としてのスキルがサトミさんより遥かに高いクリスが担当したのは大正解でしょうね。そしてクリスが最後に残した偉大なる仕事だったと思います。










Friend Opportunity

Friend Opportunity

・Friend Opportunity(2007年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック

黄金期と言える4人体制から3人に戻ってどうなるんだろう?という期待を含んだ若干の不安を、ものの見事に宇宙まで吹き飛ばしてしまった超傑作。最新作の「Deerhoof vs. Evil」と並んで、ディアフーフのエレクトロニクス寄りの中では頂点にあり、これを最高傑作だと言う人が多いのもよく分かります。
このアルバムの製作に関するエピソードで最も興味深いのは、フレーミング・リップスレディオヘッドザ・ルーツなどとツアーを回る過程で、日々生まれてくるインスピレーションを、逐一PCに録音していったというプロセス。前作が出たあたりから、一緒にツアーに回るメンバーがやたらと豪華になるわけですがww、オーディエンスが一気に増えたりする中で、得るものが色々とあったんでしょうね。
そういうプロセスを経て出来たアルバムであるという事を分かって聴くと、この作中における、どこからどうやって飛び込んでくるか予想できないほどの音数と、オンマイク・オフマイク関係なく恐らく過去最高であろう楽器の数、といった濃密な情報量も納得というものです。ディアフーフはまずとにかく詰め込んで、そこから引き算をする方法で曲を作るらしいですが、どこを引いていくかっていう作業は相当大変だっただろうなあ、と想像します。
あーなんだろ、このアルバム言う事もうないなww聴けばすべて分かるので、以下どうぞ。










Offend Maggie

Offend Maggie

・Offend Maggie(2008年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、エド・ロドリゲス

ここからギタリストとしてエドが加入して、再び4人編成へ。現在の黄金期第二期のメンバーが揃います。俺は04年に初めてライヴを観てから彼らの来日は毎回観てて、たまに関西方面へ遠征するくらい観てるので、少なくとも15回以上くらいは観てますけど、ライヴバンドとしては今が一番だと断言できます。そして、そのライヴバンドとしての充実ぶりをそのまま反映させたのがこのアルバムだと言っていいでしょう。本当に素晴らしいロックンロールアルバムです。
ライヴバンドとしてのディアフーフは、ザ・フーなんかを思い出させるような無骨なロックバンドとしての顔を見せる事もあれば、シャッグスのようなジャンクかつキュートな顔を見せる事もあれば、プログレっぽい時も、ノイズっぽい時も、そして幼稚園の学芸会っぽい時さえあるわけですが、そのキャラクターが非常に色濃く出たアルバムだと言えるでしょう。なので、ロックバンド・ライヴバンドとしてのディアフーフが何より好きって人は、このアルバムを最高傑作だと断言するんじゃないでしょうか。
で、そうなると「アップルオー」との比較になるわけですが、俺はアップルオーのギターを「初期衝動」って表しましたけど、このアルバムにおけるジョンとエドのギターは、その凶暴さを持ち合わせながらも、より老成し、深淵さを増してると思います。「Offend Maggie」のド頭のリフとか、「Eaguru Guru」の微妙にズレながら絡む複雑なアルペジオとかは、今のディアフーフじゃなければ表現できないでしょうね。
それともう一つの大きな特徴は、アルバムとしては過去最も多く日本語詞が締めている所ですね。本人いわく「何となく日本語で歌ってみたら?ってなったんで」ってくらいの感じらしいですけどw
個人的にはこのアルバムは過去最高のスルメアルバムだと思ってます。以前このブログでも書きましたけど、このアルバムは超高級利尻昆布で取ったダシって感じですね。水とコンブすっげーシンプルな味なんだけど、そのコンブと水が素晴らしすぎるので、豆腐入れても大根入れても鶏肉入れても、何入れても死ぬほどうまい!!ってアルバムだと思います。超攻撃的な豆腐になりますからね。意味分からないですか?聴けば分かります!










Deerhoof Vs Evil

Deerhoof Vs Evil

Deerhoof vs. Evil(2011年)
メンバー:サトミ・マツザキ、グレッグ・ソーニア、ジョン・ディートリック、エド・ロドリゲス

というわけでやっと最新作までたどり着いた!前述の通り「Friend Opportunity」と並んで、PCでの編集をメインとしたエレクトロニクス寄りアルバムの最高峰であり、ディアフーフが本当に奇跡のロックバンド、奇跡のポップグループ、奇跡の珍獣である事を、改めて思い知らされる大傑作。
このアルバムの大きな特徴は、スタジオ録音を行わず、メンバーの自宅やリハーサルルームで全て作られたという事と、ミキシングとマスタリングのクレジットにグレッグが明記されている所だと思います。つまりディアフーフ史上初の、自分の機材のみで完パケにした作品なんでしょう。まあ、これ今じゃ珍しい事じゃないですけどね。でも4トラックのカセットMTRで録音してたロックバンドがここまで至って、そしてとんでもない傑作を生む、っていうプロセスは凄く面白いと思いませんか?サンレコさん!!!お願いしますよ!!!
あ、あとこのアルバムのミキシングはツアーの移動中にカーステレオでやったらしいです。多分車のAUX端子とPCを繋いで、グレッグがあーだこーだやるのを、メンバーがあーだこーだ言いながら作ったんでしょうね。ほらー!!面白そうじゃん!!サンレコさん!!!
このアルバムも、最初にとにかく録音しまくって大量の素材を投入した後で、そこから引き算をしていく方法で作られたとの事で、本人いわく「持っている楽器をすべて使った」との事。それだけあって、全方向から飛んでくる音のバラエティは尋常ではないわけですが、その配置がいちいち正しいので、混乱することなく、良質なポップミュージックとして聴けるのが素晴らしいと思います。
あ、それとこのアルバム、「Everyone, Sing!」っていう歌詞が出てくる曲が2曲もあるんですよ。ディアフーフってそんな事ほとんど言わなかったのに!もうノリノリですよ。16年目って事でスウィート16ってコンセプトで作ったらしいですけど、16歳のウハウハなノリ全開ですよ。ワケわかんないですか?聴けば分かります!






という事で長々と書いてきましたが、本当に最高のバンドなので、皆さん一度手に取ってみてください。