「霧の中の風景」「赤い天使」「大菩薩峠」「血と砂」

俺様採点:5
旅の中で子供が知っていく色んな事。労働の対価、目的地であるドイツの歴史、貧困。旅の最初は緩やかに、しかし圧倒的な説得力を有したそれは見事な画面構図とカメラの動きで、子供たちの成長を描いていく。それはとても平和的で暖かい画面。子供の成長をひしひしと感じる親の目線だ。
しかし、それは姉がレイプされるという事件から方向を変えていく。今まで大人たちの善意でどうにかなってきた旅に、突然訪れた圧倒的な悪意と暴虐。(その真っ只中のシーンで、まるで救いの手を差し伸べるように画面の左端に停車し、だけども何もせずに去っていく車の姿がインサートされるのは、本当に見事な演出だと思う。)
そのシーンの直後に姉の独白として、姉と弟の二人の旅の目的地がはっきりと乖離してしまっている事と(つまりは、父の不在を知っているか否か)、終わりの見えない旅への息苦しさが提示される。この二人に戻るべき場所がなかったわけじゃない。途中で挿入される、巨大な像の手がヘリコプターで運ばれるとても印象的なシーンが示唆するように、もといた場所、もっと言ってしまえば「あるべき場所」に戻るという選択肢はあったはずなのだ。
だけど、その選択肢は最後まで選ばれず、二人は終わりの見えない、本質的に目的地が異なってしまっている旅を続ける。もしかすると、例えば姉は性の喜びと相反する理不尽な恐怖を知った事で、弟は労働でパンを手に入れた事で、自らを大人と自負する意識が高まったのが最大の原因かもしれない。
そしてその目的地がズレた旅は、旅の中で唯一二人が共通して見つけ出そうとした対象であった、霧の中の一本の木に到達することで終わる。そしてそれを導くのが、子供を打ち抜くには十分の銃弾だなんて、なんて物悲しいんだろう。
これを見て思うのだ。世界を構成する色んな要素のうち、最も原初的で土台そのものとなる事を、改めて思うのだ。子供は、誰かに守られなければならないって事を。


  • 40 赤い天使

俺様採点:5
エロイ!!!!!とにかくエロイ!!!
戦争という絶対悪とそれによってもたらされる悲劇を描いたこの映画から、反戦の宣言を読み取ることは容易だし、「物資が足りないせいで破傷風かかって死ぬよりはマシ」という一点の理由のみで手足を切断されるというシーンを、本当に増村保造らしい、鋭いカットをバンバン繋いで突き進んでいくグルーヴの中で描いたのは、とにかく強烈なメッセージを伝える事に成功していると思う。
だけどこの映画の中心にあるのは、その死の世界の中でも絶対に消える事のないセックスへの渇望だよね。要はエロだよね。この映画における若尾文子のセックスアイコンとしての存在はもはやバケモノ。彼女演ずる戦場看護婦・西さくらは文字通り天使となって、死の世界に、それに抗う唯一の方法である性衝動をガンガン投下していく。
なんせ彼女が思いを寄せる軍医のインポを自らのエロ天使パワーで治してみせます、ってシーンで、彼女がベッドの上でそのインポを強引に治したあとで言うセリフは「西が勝ちました」である。「西が勝ちました」だぜ?勝っちゃったのだ。つまり、これは戦いなんだ。爆撃と銃弾に満ちた外の世界と同じく、ベッドの上で繰り広げられたのも、呼称するなら間違いなく「戦い」だったんだ。
だからこの映画の本質は、つまるところセックスへの賛歌なんだと思う。ロールチェンジして、西さくらが軍医の軍服を着て、軍医に男言葉で命令する純然たるコスチュームプレイなんて、そんな賛歌に本気で取り組んだ人間しか思いつかない演出だろう、絶対に。


俺様採点:4
岡本喜八バージョン。
広げた大風呂敷をどうまとめるか、ってのは永遠のテーマだと思う。丁寧に一個ずつ潰して行くのも手だし、大枠でぐるっとまとめちゃうのも手だし、全てを諦めてほったらかすのも一つの手だ。
ではこの作品はどうか?この作品、要は広げた風呂敷を、最後の最大の盛り上げ所を強調するためのデコイにしちゃったんだよね。正直、中盤にかけては非常に散漫な印象が残る作品だった。加山雄三三船敏郎の登場で、輪をかけて話がとっ散らかって風呂敷がばんばん広がって行った。
だけど、この作品の軸となっていたのは、映画が始まって5分足らずで判明する仲代達矢の、凄まじくあくどい人殺しの造形なのだ。それが次第におかしくなっていく過程を描き、加山雄三西村晃の伏線が張られた瞬間、それが最後に大爆発して、壮絶な殺陣のシーンがぶっ放される。そのシーンの完璧に計算された影と光のコントラスト、見事な構図、血しぶきや切り落とされる身体がインサートされるカッティングの圧倒的なグルーヴときたら!!!そしてその殺陣が頂点に達した所で、唐突に「終」の文字が出て終わる。「デスプルーフ」並に、THE ENDの表示の瞬間に拍手したくなっちゃうような、最高のラスト。何重にも重なった西村晃加山雄三三船敏郎新撰組・・・の風呂敷をあざ笑う、最高に痛快なラストだ。見事。

俺様採点:5
岡本喜八作品。
(童貞+音楽)×戦争=大号泣。
もうこれ何も言えないわ。あまりに傑作。童貞映画の理想の一つだ。岡本喜八が明確に、泣く装置を設置してるのはよく分かるんだよ。だけど、少しもニヒルな態度をとる気にもなれず、ただその装置に飛び込んでいくしかないという、おっそろしく泣ける映画。
それも全て、三船敏郎が、佐藤允が、団令子が、伊藤雄之助が、天本英世が、仲代達矢が、そして童貞軍団が、全て期待通りの役回りを完遂してるからだよね。キャスティングでほとんど勝ちだと思う。
それにしてもあのラスト。仲間の姿が見えなくても、各々が発する音で繋がっている。どんなに猛烈な爆発音だって、自分が全力で吹き、叩く楽器の音をかき消すことなんて出来ない。だけどその意思は猛烈な暴力には逆らえず、アンサンブルから一つずつ音が減っていき、最後にあいつ一人だけになっちゃう、あのシーンは涙が全く止まらなかった。
しかし小太鼓いい奴だったなあ。