愛、アムール

香港の映画館にまた行って参りました。broadway cinematheque(百老匯電影中心)ってところですね。こないだジャンゴを観たところと同じ映画館です。前も書いたかもしれないけど、ここはスクリーンが4つあって、その下のフロアには会員向けのレンタルDVD(しかもタダ!)があって、CD&DVDショップがあって、本屋があって、その横には電源が使えるカフェが併設されてる建物なんですよ。映画をハシゴしながら一日中そこにいることも出来るような、そんな素敵な場所なんです。
ということで今回、会員になりました。年間たったの120HKDで、レンタルDVD借りまくりだし、映画やDVDやカフェのメニューも20%くらいオフになるし、コストパフォーマンスが良すぎるんです。昨日の時点では暫定的な会員カードを貰ったんですけど、2週間後に正式なカードが出来るとのこと。会員登録する時に写真を撮られたんだけど、その写真がカードにプリントされたりするんでしょうかね。
昨日はミヒャエル・ハネケの「アムール」を観て来ました。日本だと「愛、アムール」ですよね。愛、愛ですね。これはハネケ版の「叫びとささやき」って感じでしょうか。そして介護映画ですね。介護疲れ映画でもあります。介護する側が最初に戦うのは、実は介護される側のプライドなんだってところとか、次第に言葉がうまく操れなくなってくるところとか、そういった部分での生々しさと、それに戦う覚悟を試される心の息苦しさを描いているという部分では、とても端正で丁寧に撮られた映画だと思います。そして役者の演技も凄まじく素晴らしいと思います。
しかし介護ってもっとハードだと思うんですけど、ハードな部分は結構さらっと描かれちゃってますよね。うんことかおしっことか風呂に入れさせることの難しさとか、随分と端折ってましたよね。トイレのシーンも入浴のシーンも1回しか出てこないよね?尿瓶を確認するシーンはシーツの後ろに隠れちゃってるよね?俺は母親が介護の仕事をしてるので、介護に関してはすごく生々しい話を聞いてきただけに、その部分でこの映画は正直「生ぬるい」と思います。介護する側が爺さんにセクハラされるとか、そういう生々しいことがいくらでもある世界なんですよ。そこがよりによってハネケなのに随分ぬるいな、と思います。・・・と、書いて思ったんですけど、もしかして香港公開版はカットされたシーンとかあったりしないよね?糞尿とか下の毛はダメだとか、そういうのあったりしないよね?おっぱいはあったけどね。おばあちゃんのだけどね。以下、カットされていない、って前提で話します。
そういった介護では絶対に不可避な部分が、随分とさらっとしていたので、全体としては非常に淡白な印象を受けてしまいました。淡白になったらいけない話だと思うんですけど、必要な要素がいくつか抜け落ちているんですよね。さっきこの映画は心の葛藤をとても端正で丁寧に撮ってると書きました。役者もすごいです。作品としての骨格は本当に強靭で、見事だと思います。
ただ、それは間違いないんですが、そこに説得力を与える重要な(いや、不可欠な)要素が抜け落ちちゃってると思うんですよね。デザインも強度も完璧な鉄骨を組んだのに、コンクリートがゆるい建物みたいなんです。葛藤とか迷い等といったメンタルの戦いと、糞尿の匂いや入浴させる難しさ、床ずれ・褥瘡等といったフィジカルの戦い。この2つをしっかり両立させなくてはいけないんだと思うんですよ。そしてそのフィジカルな部分は話を美しくさせないかもしれないけど、ミヒャエル・ハネケという人のフィルモグラフィを考えれば、何故そこをぬるく描いてしまったんだろうと思います。
だからこの映画って「重くない」んですよ。現実はもっと「重い」です。それを誰もが覚悟をしなくちゃいけないんです。鳩ポッポ。