【レビュー】第32節 横浜FC戦@日産スタ

横浜FC 0-2 アルビレックス新潟
エジミウソンドス・サントス・シウバ。加入以来、新潟の絶対的なエースストライカーとして君臨し続けている男。この試合の彼から感じたのは、「悲壮」と表現するのが一番正しいような、そんな姿勢だった。あのPKを決めた後に全くゴールパフォーマンスしなかったのは、後で「ずっと外し続けていてイライラが溜まっていたのでパフォーマンスを忘れてしまった」って健気なコメントを出してるけど、これはウソでもあり、本当でもあるんだと思う。
恐らく彼が今目指しているのは、ただひたすら得点を奪うことだけ。チームの勝利のため、そして彼がずっと言い続けてきたサポーターにアレグリア歓喜)をもたらすため。その2つの題目の為にゴールを奪うと言う姿勢はこれまでと同様なんだろう。ただ、これまでとは違うのは、自らの存在を刻み込むため、2007年シーズンにアルビレックス新潟エジミウソンという選手がどれだけのゴールを奪ったか、という記録を最高の形で残すため。その目標が具体的に彼の中で設定されたんだと思う。
それがなぜかって事に関しては、正直言ってサポーターからじゃ分からない。今シーズンが終わった後に新聞を賑わせるであろうニュースのせいかもしれないし、得点王のタイトルを現実的に狙える所まで来たからかもしれないし、それ以外の理由かもしれない。でも少なくとも、この試合で遮二無二9本ものシュートを打ちまくったエジを、そして2ゴールという素晴らしい成績を残した後でもちっとも満足した表情を見せなかった姿を見れば、間違いなく前述の彼の姿勢を見て取る事が出来た。これまではいつだって陽気なブラジリアンらしく、ゴールを積み上げても割と飄々としてたエジが、悲壮な覚悟でゴールマウスにシュートを打ちまくる姿を見て、ちょっとだけ泣きそうになってしまった。



この試合の前半は新潟ペースで始まった。横浜FCのDFライン、特に早川の代役として起用された岩倉とボランチがバタバタするシーンが目立ち、そこを見逃さなかった新潟の攻撃陣が、素早くパスを回して立て続けにチャンスを作りまくった。特に相変わらずマルシオ・リシャルデスエジミウソンのコンビは強烈で、この二人のパス交換と的確に顔を出す貴章のトライアングルでプレッシャーを与えまくる。すると寺川も久々にサイドプレイヤー的なクロスを放つシーンも観られたり、内田がいい形でクロスを上げられたりと、非常にいいリズムでゲームは進んだ。
しかし、前半も半ばを過ぎると次第に横浜FCの攻撃が危険な匂いを漂わせ始める。その原因は淳さんも指摘していたけど、ラインの押上げが出来ない事に起因した中盤のプレッシングの甘さ。この試合の横浜FCは山口が1ボランチ、カズが1トップは固定で、その間の三浦アツ、根占、滝澤、カタタウが4-3-3と4-1-4-1を行ったり来たりするという形だったのだけど、その新潟のDFラインとボランチの間のバイタルエリアで躍動する4人を捕まえきれずに、フワフワとボールを簡単に繋がれると言うシーン増えてきた。これは「ラインの高さの設定は相手のトップに合せるのが基本コンセプト」である新潟の守備組織の弱点でもあるのだけど、横浜FCの縦に速い展開とカズの踏ん張りが新潟にとって不利な状況を作り出すことになってしまった。(つまりカズはすげーってことなんだけどw)
そうすると一番の危険人物であるカタタウのドリブルのスタート位置がゴールに近くなり、その結果新潟の左サイドの攻撃が殺される事になってしまうという悪循環。でも最後ではしっかり守れるのが今年の新潟。特に千葉ちゃんがカタタウにすこーんと抜かれたシーンで、右サイドから凄まじいスピードでフォローに行って、スライディングでシュートを掻き出したうっちーのプレーは出色。さすがだぜ俺だけのうっちー。
しかしそんな守備の拙さもあったけど、前半は間違いなく新潟ペースだった。特にエジは普段そこから狙わないだろ!って位置からの凄まじいミドルシュート連発。(まあ正直、アレをいつもやってればもっと点を獲れてたんじゃね?とは思うけどw)しかもそれが無茶なトライじゃなくバーを叩いたり、菅野の好セーブに防がりたりと、ゴールの匂いプンプン。この果敢なトライが前半の新潟の攻撃面でのリズムを作り出していたのは間違いないだろうね。
そして後半。まず明らかに違ったのは新潟のラインの高さ。この強気のライン設定で、プレスがキレイに掛かるようになり、前半以上に横浜FCのDFラインをゴール前に張り付けにさせ、新潟のポゼッションが上がった。ここで特筆しておきたいのは、千代と千葉のヘッドの上手さ。横浜FCは前半同様、縦に速い浮き玉を送り込んできたのだけど、それを背を向けて収めようとする相手のトップに対して背後からにゅっ、と頭を出して弾き返すと言うプレーの精度が素晴らしかった。恐らく後半はこのプレーに関してはほぼ100%の勝率だったんじゃないだろうか。地味なプレーだけど、こういうのがリズムを作り出していたのは無視しちゃいけない要素だと思う。
で、前述の通り新潟のポゼッションは上がった。ただ、それが効果的な攻撃に必ずしも繋がらないのがサッカーというスポーツ。後半は完全に泥仕合の様相を呈してくる。奪ってからの速い展開で何度かチャンスを作り出そうとはするのだけど、勝負パスが精度を欠き、リズムを自ら崩してしまった。
で、こういう展開になればベンチも動きやすい。75分にテラに替えて河原、80分に貴章に替えて深井を投入。そして、この交代がこの試合の分水嶺となった。
この交代で河原が前線に絡むシーンが増えると、エジが左右のスペースに流れるという選択肢が生まれ、それが横浜FCのDFにギャップを作り始める。結局深井がPKゲットしたシーンも横浜FCの中盤が半端に前に出てDFとボランチの間がスカスカになった所に波状攻撃を仕掛けた結果。まさにベンチ勝利と言ってもいいと思う。そしてそういう混沌とした状況であればドリブルが(相手にアクシデンタルなミスが生まれるって事も含めて)効果的であるということを熟知した深井のプレーは圧巻。間違いなくこの試合の勝ち点3の立役者だろうね。
そしてエジがPKを決めてようやく先制すると、ゴール裏からの蹴っ散らせコールに呼応するかのようにその攻めの手を休めない新潟。深井がゴリゴリとドリブルで突き進んで頑張ってエジに決定的なラストパスを通したのにウソみたいなシュートミスがあったり(あれは決めろよエジw)したけど、最後はマルシオの丁寧なスルーパスをエジが流し込んで2点目で決着。そしてエジにとっては得点王を狙うために必須な2点目でもあった。



これでしっかり5位キープ。残りは2試合。そこで欲しいのは勝ち点6だ。勝ち点6取れれば文句なしで5位を確保できるわけだから。そしてその為には間違いなくエジの存在が必要となる。目標達成の為に絶対必要なのはエジのゴールだ。来年のことなんて分からない。今分かっているのはエジはアルビレックス新潟の得点源であると言う事、新潟は5位を狙うために勝ち点6が必要であると言う事、そしてエジは得点王を狙える位置まで来ているという事だけだ。
エジミウソンドス・サントス・シウバ。加入以来、新潟の絶対的なエースストライカーとして君臨し続けている男。そして俺たちに今まで一番多くのアレグリアを届けてくれた男。エジ、今はとにかく点を獲る事だけに集中してくれ。今シーズン終わったら今までで一番のアレグリアを一緒に堪能しよう。そして得点ランキングトップに君臨する君を祝福させてくれ。その為に、あと2試合。一緒に、全力で戦おう。