【レビュー】08年第2節 FC東京戦@スワン

アルビレックス新潟 2-3 FC東京
スタッツ



「ピッチにはいろんな人の想いがある。それを無駄にするな。最後まで下を向くな。闘え。」



前節の大宮戦に続き、前半で致命的なビハインドを背負うゲームとなってしまった。しかも前節の言うなれば若干不運な部分もあった失点な比べて、準備の拙さ、対応の拙さ、そしてなにより絶望的なまでの集中力の欠如による、完全な自滅のマヌケで不細工な3つの失点。前半の新潟ははっきり言って最低だった。ここ数年でも最も酷いといってもいいくらい、最低の出来だった。補強が十分だったとは言えなかった事、怪我人が出たこと、代表で選手が取られてキャンプでの戦術のすり合わせが決して良好にいったわけではなかった事・・・・そういったエクスキューズをかざす以前の問題。戦うために選ばれた選手たちが、準備を全く怠ってフワフワと試合に入ってしまったのだから。その根本の部分がぶれたらこういう凄惨な試合になるに決まってる。
試合開始早々まず思わず目を覆ってしまったのは、FC東京のストロングポイントである2列目の選手をまったく捕まえ切れなかったこと。特にセンターバックボランチの関係があまりに曖昧で、それぞれが何をしたらいいのか分からないまま試合に入ってしまったことが、開始早々で明らかになる。
それには色んな原因があるけど、1つは1トップのカボレのマークが余りに緩かったこと。確かに2列目の石川とエメルソンが上がって3トップ気味になったり、カボレが中盤まで下がって0トップ気味になったりと、向こうが守備を引き離すための色んな工夫をしてきたのは間違いない。ただ、それでもPAライン際でカボレがノープレッシャーでボールを叩く様なプレーが出てくるのは異常としか言いようがない。
去年の新潟の守備が上手く機能してたのは、トップにボールが入った時にセンターバックのどちらかが必ずファーストディフェンスに行く事を怠らなかったからだ。そしてその最初のアタックに対して、もう一人のセンターバックとDFラインの前でボランチがフォローしていく、という基本がぶれなかったからだ。そういったプレーがこの試合の立ち上がりでは全くの皆無。
そんなマズい流れの中で、一つのミスが起きる。うっちーの不用意なパスが中盤でかっさわれると、守備の人数が揃っていながら誰もその事態に対応できずに簡単にボールを繋がれて失点。開始早々から垣間見せていた守備組織の崩壊、そして選手の集中力の欠如が、あっという間に失点という形で白日の下に曝される事に。
するとFC東京はその不安定さを見逃さない。そのいきなりの失点で浮き足立つ新潟に対して、最初のコーナーでいきなりショートコーナーを狙ってきた。恐らくあのショートコーナーから石川がシュートで強襲して、そのこぼれ玉を狙うという形はオプションとして用意してきていたのだろう。その不意打ちは全く集中力を欠いていた新潟には実に効果覿面で、どフリーで石川がシュートを放つと、これまた準備の出来ていなかった北野が相手の思惑通りボールをこぼしてカボレに詰められて2点目。
そしてあの3失点目だ。いきなり2点のビハインドを背負った中でまずは試合を落ち着かせることが急務だったはず。守備陣がまず現状を確認して、声を掛け合うなり全てセーフティーに切るなりすべきだったはず。なのになんでもないロングボールをCBとGKがお見合いして相手にボールをさらわれると言う最悪のミスを起こしてしまう。あれは去年から見せていた不安定な部分の一つだけど、なぜここまで改善が出来ていないのか。あれはどっちが判断してどっちが先に声を出していくか、って事を一回しっかり確定させればそれでいいプレーなはず。その辺の準備を怠り続けたツケが最悪のタイミングで出てきてしまった。もうここだけは全てを差し置いてすぐさま修正して欲しい。二度とあんなマヌケなプレー見せるなよ。


で、ここまでの出来事がたった12分間の間で起きたということが、この試合を決定付けてしまった。守備陣は去年なぜ6位という好成績を収めることが出来たかを考えて欲しい。それは失点が激減したという事でしょ?。特に一度失点した後で、その空気をズルズル引きずるという悪癖が大きく改善したからだ。その手ごたえを去年手に入れたんじゃないのか?
今年の守備陣は去年と全く同じメンツなんだ。新加入選手が入ったから連携がまだまだ、とかそういう言い訳は出来ないのだ。それにベンチとしても守備陣が昨シーズンからの継続だって事で、まずここは計算が立つって事でチーム作りを進めていたはず。後半はやっと去年からの継続が見られたけど、ここだけはもう一度見直して欲しい。新潟の戦術の根本の部分なんだから。
それに今日の試合で言えば戦術とかを論じる以前の「集中力」っていう根本的な部分が抜け落ちていた訳だから、そこは本当に猛省して欲しい。冒頭に紹介した監督の言葉。「ピッチにはいろんな人の想いがある。それを無駄にするな。最後まで下を向くな。闘え。」この言葉をもう一度噛み締めて欲しいと切に願うよ。




はー・・・・やっと後半の話に移れる。なげーよ!だって、早く後半の話したかったけど前半があまりに酷すぎるんだものヽ(`Д´)ノ・・・・まあいいや。
後半の新潟が前半とは決定的に違ったのはサイドバックの位置だった。前半は相手の中盤の底の3枚とサイドバックが上手く連携して、新潟の狙いたいサイドのスペースを上手く潰されてしまっていたのだけど、後半開始早々から両サイドバックが同時に積極的に上がるという新潟らしさが戻ってくる。この流れを作ったのは寺川とダヴィの両サイドハーフ。この二人が前半とは違って相手のサイドにちょこちょこ顔を出して相手のボランチを引っ張れるようになって、前半上手く機能していた東京の守備にギャップが段々生まれてくる。
この試合のテラとダヴィのスタートポジションは大宮戦のスタートとは真逆の左にテラ、右にダヴィという並びだったのだけど、これがようやく奏功した感じ。大宮戦の後半もそうなのだけど、プレーの殆どを左脚で行うダヴィが中を向いて相手の守備を突っつく形が増えると、うっちーが上がるスペースが生まれてくる。恐らくマルシオがいない現状ではこの形がベストだろう。やっぱり今年も、クロスを上げる仕事の半分以上をサイドバックに任せるという形が新潟の戦い方になるようだ。後半の攻勢を見てると本当に思う。
で、この試合で素晴らしかったのはテラ。大宮戦でのサイドバックとの連携の物足りなさが、この試合では一気に改善された。02年のようなサイドへの果敢な突破はさすがにあんまり見られないけど、ボールを受けて子気味よくパスを配給し、上手くサイドに顔を出して松尾の上がってくる位置を作り出す。そのスペースがまだちょっと低くて松尾のクロスがアーリークロスばっかりではあったけど、ここをもう少し整理・成熟してもっと前に松尾が前へ入り込んでクロスを上げるシーンが増えてくれば、新潟の攻撃は右だけではなく左も生きてくるはずだ。
そしてそのサイドの活性化、特に右サイドで生まれてきた「予感」を内田が見事にゴールという形で具現化する事に成功する。ダヴィがセカンドボールをうまーくコントロールして、後半何度か生まれていたボランチサイドバックの間の美味しいスペースにうっちーが入り込んでズドン。重苦しかった雰囲気を、偶然ではなく、新潟が果敢に働きかけたプレーの結果の「必然」のゴールで振り払ったのは本当に大きかった。
そしてその流れをピッチ上の誰よりも理解し、そのチャンスを虎視眈々と狙っていたのが貴章だった。間違いない。今の新潟は矢野貴章のチームだ。1点目で引き寄せた流れを離さずに、後半開始からちょくちょく生まれていた東京のサイドバックの裏を、あの最高のタイミングで、最も危険な形で見事に突いた。素晴らしかったと思う。そしてその動きを見逃さなかったテラのベテランらしい読みも見事だった。
そのゴール後の東京のキックオフ直後の「スライディング→DFラインの単独突破の試み」でもそうだけど、貴章は本当に大人になったと思う。あの流れでああいうプレーを見せたら、チームが、そしてスタジアムが盛り上がらないわけがない。そういった流れを読める選手になったのだ。今の貴章の素晴らしさはプレーの精度の向上もそうだけど、やっぱり意識の問題なんだろう。環境や意識の変化ってのは選手を変えるんだよな。


それと後半は前半のような守備の脆さは随分改善されていた。それは千代がカボレへのファーストディフェンスの意識を尖らせた事と、ボランチの関係が新潟の理想である縦関係になったのが大きかった。やっぱりボランチがDFラインの前でしっかりフォローしていく形にしないと新潟のサッカーは始まらない。ここが全ての基本なのだ。
で、その守備の整理とサイドの活性化で勲と千葉が交互に前線に飛び出していく場面が増える。特に千葉ちゃんは2本ほどいいミドルを放っていたけど、あの位置からのミドルという武器は去年にはあまりなかったもの。千葉ちゃんは自信を持って撃っていっていいと思う。その結果どこかでゴールという結果が生まれればその自信は大きな武器となって新潟を救う事になるはずだから。
で、後半は圧倒的に新潟がペースを握った。ただ57分、58分の衝撃的な2ゴールの後、結局それ以上のゴールを奪うことが出来なかった。その原因の一つはアレッサンドロという存在を、彼自身も、チームとしても、まだどう扱うか不確定だった点。大宮戦ではアレがもっとサイドに流れてボールを受けていくシーンが多かったのだけど、この試合ではセンターからあまり動かず、貴章とバッティングするシーンが目立った。せっかくサイドでいい流れを作れていたのだから、もう少し相手のDFを左右に動かすプレーを見せて欲しかった。
まあ、そのポジショニングはサイドからのクロスが増えたのでゴールが欲しかったっても恐らくあるだろうし、それは間違っていないけど、ビルドアップの時点でセンターにボールが集中しちゃうのは流れを潰してしまうし、やっぱり貴章とバッティングするのはマズイ。
それにまだ(これはアレだけの問題ではないのだけど)、チームとしてどういうボールで勝負するのかってのが固まってないのが現状の課題になるだろう。ようやくこの試合ではサイドの利用法についての答えも見え始めたし、ボランチがどう攻撃に絡んでいくかっていうヒントも見えてきた。そして今年の貴章の360度の機動力、突破力は信頼を置いていいって事も分かった。だから後は最後の部分。貴章を主軸として攻撃を構築した時に、最後にどうやってフィニッシュを決めるかって部分を確立していって欲しい。
リーグ戦はこの後のA浦和→H鹿島→A柏→Aガンバという日程が最初の、そしてもしかすると今年最大のハイライトになるかもしれない。なので、そこを乗り切るために残された試合=ナビスコ2試合をしっかり、全力で戦って欲しい。今年はナビスコも全力で戦う場所だ。不確定な部分を補うには、公式戦を積み重ねていくしかないからね。今年は前半戦の日程が詰まっているので、色々としんどい所もあるだろうけど、チームとして纏まるためにはそんなこと言っていられないよ。



ピッチにはいろんな人の想いがある。それを無駄にするな。最後まで下を向くな。闘え。