【レビュー】09年第8節 千葉戦@スワン

アルビレックス新潟 2-2 ジェフユナイテッドちば
スタッツ


サッカーってロジカルな部分とアンロジカルな部分がせめぎ合うスポーツだと思う。ロジカルってのは例えば戦術だとか、ポジショニングだとか、選手交代とか、そういうこと。アンロジカルってのはモチベーションだとか、ホーム/アウェイって要素だとか、集中力・精神力だとか、そして運だとか、そういうこと。
かつて反町監督はそれを「右手にロジック、左手にパッション」という言葉で見事に表現してたけど、その二つの要素があいまって勝敗が決まっていくものだと思うんだよね。で、そのうちのどちらかが欠けても、もう片方がそれを凌ぐだけあれば、勝利に結び付くことはある。逆に愚直に努力してその二つの要素を獲得していても、どちらかの要素が暴走して悲劇を生むこともあるんだよね。
それはつまり、曖昧だけどすごく便利な言葉を使ってしまえば「サッカーはこれだから分からない」ってヤツ。この試合は、そんな気まぐれなサッカーの神様の残酷な采配に打ちのめされちゃった試合だった。
でも、そのアンロジカルな部分でさえコントロールしちゃうのが、本当に強いチームなんだろうけどね。ああ、もっともっと成長しよう。成長したいよ。こんなに悔しい思いはもうたくさんだよ。



試合の立ち上がりから両チームともにフルスロットル。いきなりDFラインからのフィードに抜け出した谷澤が苦しい体制ながら北野と1対1になるものの、北野がナイスセーブ。返す刀で新潟も怒涛のプレスで相手を押し込んで、この試合何度も好機を演出してたジウトンのクロスにオオシがGKと競り合い、こぼれ球を貴章!もう一発ペドロ!と怒涛の攻めで押し返す。
で、その時間の千葉は予想通り、浦和戦の前半のような後先考えない怒涛の攻めを見せてくる。これまた戦前の予想通り、谷澤と深井の二人がサイドバックと対面しながら、巻を軸にして中に入ったり、裏に飛び出したりって言う攻めを運動量豊富に見せてくる。8分には谷澤ミドル→北野セーブ!→こぼれを巻がシュート!→また北野セーブ!→こぼれをアレックスシュート!→今度はうっちーがブロック!、と決定的な形を作るのに成功するものの、最後は新潟の守備陣が踏ん張ってゴールを許さない。
で、次第に試合の流れが落ち着いてくると、新潟のプレスの早さとポゼッション能力の高さ、そしてペドロ、オオシという圧倒的な才能が真価を発揮し始める。ジェフは相手の攻撃時にはリトリートしてスペースを埋めてくるので、その前でポゼッションを繰り広げるシーンが多かったのだけど、そこでペドロが圧倒的な個人技で起点を作り、かつ単独でその組織の間を縫って行く。もうこの試合の前半のペドロはまさに怪物。超絶テクニックとスピードで相手に脅威を与え続ける。
で、そこからリズムが生まれてくると、ジウトンが効果的なオーバーラップを見せれば、松下が相変わらず気の利いたポジショニングでボールを繋ぎ、かつこの時間で2つのミドルのトライも見せるし(そういや大宮戦のコメントで「シュートにトライする回数が少ない」って反省をしてたけど、それを改善するって言う意志もあったんだろうね)、右では貴章、うっちー、マルシオが何度も相手のギャップをツンツンと突っついて行く。前節大宮戦では全く見られなかったボールが動く中盤。
で、その前ではオオシがセンターバックを背負いながら、中盤から来たボールをほぼ完璧に捌く。これぞポストプレー職人の仕事。やっぱりナビスコの大宮戦とかでもそうだけど、こうやって相手がある程度引いてくる状況、そして中盤でボールがよく動いている状況だとオオシは輝くな。ホントおなかいっぱいそのポストプレーの妙技を楽しめたもの。

で、そのポジティヴな状況が見事結実したのが25分の先制点。中盤で勲のパスを受けたペドロがドリブル開始。アレックス、深井と2枚をぶっこぬき、バイタルエリアへと侵入開始。で、その時に左の大外ではジウトンが待ち構え、かつバイタルにいた松下がすかさず左へと走ってデコイとなると同時に、ペドロが侵入すべきバイタルのスペースを生み出す。で、松下とジウトンに釣られて完全にDFが左に寄った所で、右の貴章は完全にフリー。そしてバイタルエリアの最後の砦となる下村を見事な切り返しで交わしたペドロが、貴章に勝負パス。で、貴章がシュートに行くことを想定してそのシュートコースを切りに行ったDFをあざ笑うかのように、貴章はシュートフェイントを一発入れつつ、ワンタッチでこれまたフリーのマルシオにパス→後はぶち込むだけ、でゴール!!!ファンタスティック!!
個人技、フリーラン、組織、判断、精度。全ての要素が高いレベルでがっちりハマった最高の先制点だった。


前半の残りはどちらかと言うと千葉ペースだっただろうか。相変わらず前線のアタッカーを走らせて、そこにロングレンジのパスを供給する形を続けていく。ていうかビルドアップするとすかさず新潟のプレスがかかってくるのでそうならざるを得ないわけだから、そういう意味では新潟ペースだったと言えるかもしれない。


後半の立ち上がりは新潟ペース。え?それ本当に大丈夫なの?ってくらいに高い千葉のラインの裏をペドロあたりがガンガン狙ってリズムを作っていく。
ただ、次に試合を動かしたのは千葉。52分。右からの和田のロングスローを跳ね返そうとした永田さんがヘッドをミスしてCKに。なんとなーく嫌な感じでCKを取られてしまったので、集中じゃああああああああおらああああああああ!!!!ってスタンドから叫ぶ俺。しかしその声が届くはずもなく、北野が触れなかった外でボスナーに当てられてしまい失点。1-1。
てか後半のCKって何かほとんど相手に先に触られてたんだよね。あれ早急に修正を。去年もジェフ戦でセットプレーで取られてから、負の連鎖でセットプレーの失点が続いたんだから、絶対にここだけは修正してもらわないと。頼むぜ!

しかし、新潟のホームでの勝ちパターンでよくあるのが「同点に追い付かれたけどすぐに勝ち越しゴール決める」ってやつ。この試合もまさにそれで、その同点弾を意に介さない新潟が相変わらずガンガン攻めまくると、54分に左スローインからペドロとジウトンのコンビでパス交換して、ジウトンがクロスを上げると、ボスナーに完全に競り勝ったオオシが驚異的な打点の高さでヘッドを叩き込んで勝ち越し!!!2-1。開幕戦以来取れてなかったオオシに待望のゴールが生まれる。

その後もその勢いのままアグレッシヴな攻撃を繰り返す新潟。55分には相手のミスを拾ったペドロに呼応して一気に前線がスピードアップして、スクエアなパスを受けた貴章がシュート。
59分にはセンターサークル付近でボールを受けたペドロがドリブルで真ん中をぶち抜いて左に流れた松下とパス交換してゴールに迫る。
61分にはアレックスから貴章がボールを奪うと、切り替えが完全遅れたジェフの守備を置き去りにした3トップにマルシオからパス。一瞬3対1の状況を作るも、貴章の判断がちょい遅れてクロスをカットされる。
63分にはマルシオのヒールパスを受けた勲が右からセンターのオオシへパスを送ると、オオシがそれをワンタッチで絶妙の落としを見せるという、これぞポストプレイヤー!なパスからペドロがミドルを打つもGK正面。

とまあこの辺からハッキリと千葉はガス欠になって、無謀なロングボールに終始するようになるので、運動量で勝る新潟がチャンスを作り出しまくる。あとこの辺からの勲はまさに出色の出来。千葉にとって「これを繋げれば楽になる」ってシーンを悉くカットして新潟のチャンスに繋げていた。マジで凄かった。

で、この状況を見てアレックス・ミラーも動く。65分、工藤に替えて米倉。71分、アレックスに替えて斎藤。そのままセンターハーフに入る。

しかし流れは変わらない。72分のセットプレーから、今までは見たことのないオプションである、ちょこんと出してマルシオがミドル、っていうトライの後、弾かれたボールをフォローしたうっちーのクロスから永田さんの決定的なヘッド!も岡本ビッグセーブ。そしてそのCKからジウトンヘッド!などなど、決定的な形は圧倒的に新潟が多く作る。
対する千葉は相変わらず完全に消耗していて、ラインを積極的に上げるものの新潟のプレスを前に繋ぐことが出来ず、前へ蹴っていくというシーンが散見。あとは新潟がとどめを刺すか、それともこのまんまクローズさせちゃうか、どっちでも選べるというこの試合のイニシアチヴを完全に握っていた。


で、ベンチはとどめを刺す方を選択。この時間にやたらとラインが高くて裏のスペースを狙えそうな状況もあったのだろう、80分にオオシと替えてスピードで裏へと走れるヨンチョルを投入。その意図をハッキリと分かっていた新潟も裏を狙う攻撃を何度も見せて、相手に呼吸をさせずにゲームを終焉へと進めていく。
それを見て82分にミラーは谷澤に替えて新居を投入。この試合で初めて、1トップから2トップに配置換えしてくる。
そうなるとこれまでの千葉のロングボールの応酬に新たなターゲットが増えるわけだから、必然的にセカンドボールの落ち方も回数も違ってくる、ってのを見越してなのだろう、淳さんは84分にすぐさま松下に替えて千葉ちゃんを投入。勲とのダブルボランチにしてバイタルを厚くする。
もうね、この交代の流れはこれ以上ないくらいロジカルに正しいものだったと思う。84分間攻めの姿勢を緩めず、ゲームを支配し、勝負を完全に決めるその一点を追い続ける。そして、残り数分で相手が最後に勝負に出た時は、それにアジャストしてゲームを1点差のままクローズさせる方向に切り替える。シナリオとしては完璧だった。それに千葉はその時間、新潟の守備に全く攻撃の糸口を見いだせずにいたんだから、追い打ちをかけるって意味でも正しかったんだよね。

だけど、失点した。ロジカルに進めてきたこのプランを一発で瓦解させる、アンロジカルな要素が暴走しちゃったんだよね。だって、あの一回だけだよ。あの一回だけ、決定的な形になってしまったんだ。
これを不運、って言葉で逃げてもいいのかもしれない。でもあの失点シーン、勲もコメントで言ってるけど枚数は足りてるんだから、左に流れた深井にあんなに引っ張られる必要なんてなかったし、コーチングでどうにでもなった。多分、本当に強いチームならそれに加えて、深井に引っ張られた時点でパスコースの先にいる下村を誰かがケアしてたはずなんだよね。
要は、こういう「不運というアンロジカルな要素」を未然に、あくまでロジカルな方向から潰せるチームにならないといけないって事だよね。やっぱり甘いよ。このチームはまだ甘い。こういうゲームでポイント2を失ってはいけないよ。うん、絶対にだめだ。


その後89分に勲に替えてアトムを投入して最後の一点を取りに行くも、最後までゴールは奪えず試合終了。


だけど下を向いてる暇はない。連戦は否応なしに続いて行くし、次は浦和戦。大一番だ。この試合で見せたアグレッシヴな姿勢を忘れず、いい準備をすることだけに集中すべきだろうね。こぼれたミルクを嘆いていても何にもならない。次に進もう。そして次こそ勝ち点3の美酒に酔いしれよう。絶対勝とうぜ!!!!!!!!!!