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俺様採点:5
この映画、チラシとか広告とか観てると、ほとんどが学生運動に関わる時代性に関する言及ばかりなのだけど、本質はそこじゃないと思う。これは、子供が子供でいる事を否応なしに否定され、大人になるしかなくなる事を描く、そんな青春映画。「リンダ リンダ リンダ」や「天然コケッコー」で描いた青春のその先に更に伸びた青春を描き、そしてその青春にザックリと幕を下ろした映画だ。
この映画の主人公、沢田と梅山は完全に子供だ。もう学生としての子供じみたモラトリアムを終えて大人にならなくてはならない立場に至っているにもかかわらず、ぬるいジャーナリズムと、先人のトレースでしかないぬるい左派思想に溺れ、そのくせ自分がこの世界に、いや、もっと言えば「大人の世界」にしっかりと楔を打ち込んでいると思いこんでしまっている。
だけど、いざ自分が子供じゃ太刀打ちできない大人の世界に放り込まれた途端、完全に路頭に迷い、自分の軸はズレ、見苦しい言い訳を並べる事になる。
象徴的なのは、沢田がジャーナリズムと法律の狭間に放り込まれて右往左往している時、あの腕章を焼いて処分してしまった理由を「気持ち悪い」という極めて稚拙な言葉で説明していた事だ。あれは、表紙モデルの女子高生があの事件に対して「なんだかよく分からないけど、嫌な感じがする」と言っていたのと本質は全く同じ。つまり、大人でありながら、子供の言葉と何ら変わらない言葉しか持ちえていなかったということなのだ。


そしてラストシーン。あの頃は恐らく下に見ていたであろう、かつての子供が大人の世界の住人になり、結果的に世界の中でちゃんと屹立し、自分の存在を示す事が出来ている事を目にする。そこでやっと泣く事が出来た。子供である自分との決別の必要を痛感し、大人になる事をやっと受け入れる事が出来たからこその、あの涙なんだ。
そしてここでもその涙はまた、かつて子供である女子高生が言っていた事とリンクしてくるのだ。その山下敦弘の饒舌さ。見事だと思う。


それにしても松山ケンイチは本当ウマイ。めっちゃ上手い。あの仰々しい手ぶりとか、山下演出もさることながら、本当にメチャメチャ上手いよ。あれだけ激しいのに、しっかり空虚。すげえ。